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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox 九月の狂想曲 常盤台中学の待機所に戻った御坂美琴は上条当麻と仲良く厳重注意を受けた。 美琴達に厳重注意をしたのは美琴の担当教諭で、厳重注意を受けた理由は『男性の腕に抱き上げられてその姿が世界中継されるなど常盤台の学生としてあるまじき行為』で、厳重注意の内容は『他の生徒の父兄が動揺するので以後こういった行動は慎むように』だった。 常盤台中学は世界有数のお嬢様学校として各地より優秀な子女を預かる立場であり、お嬢様学校であるが故に品性、品格にいたくこだわるのが校風なのだから美琴達が叱られても仕方のないことだった。 何一つ言い逃れのできない状況で上条が『大覇星祭ということで浮かれていた、美琴が「借り物」であったため調子に乗りすぎた』とひたすら頭を下げたため、お説教は『気をつけるように』との定型句で打ち切られた。 だが美琴としては、先ほどまでの甘い気分も上条からのサプライズも粉々に吹っ飛ばされてげんなり、という気分だ。 担当教諭の言い分は正しいし、美琴も肯定する部分はある。 それでも叱るなら自分一人にして欲しかったと美琴は思う。 調子に乗ったのは美琴で、上条は美琴のわがままを聞いただけなのだ。 そして何より気に食わなかったのは、上条の去り際に担当教諭がぽつりと『ふん、無能力者(レベル0)が』と呟いた事だ。 常盤台中学の入学条件は最低でも強能力者(レベル3)と決められている。 つまりそれ以下の能力者はどれだけ人格的に素晴らしかろうが相手にしない。 無能力者など、常盤台の教師からすれば超能力開発という時間割り(カリキュラム)から外れた落ちこぼれに過ぎないのだ。 美琴もかつては無能力者(というよりはスキルアウト)をそう見ていたところもあり、あまり強く言えた義理はないが、 それでも。 その小さな事が、頭にきた。 心の底から。 そのたった一言で上条を切り捨てる教師の態度が許せなかった。 教師も、常盤台中学も、あるいは統括理事会でさえも『知らない』妹達と美琴の問題を、ただ一人命をかけて救ってくれたのはほかならぬ上条なのだ。 無能力者だから切り捨てても良いのではない。無能力者は無能力なんかではない。 無能力者が蔑まされるようなスキルアウトに走るのは個々の事情であり、無能力者だからと十把一絡げに扱わないで欲しい。 相手が自分の学校の教師でなかったら、上条の何を知っているといるんだと美琴は即座に雷撃の槍を叩き込んでいたかもしれない。 そんな事をすればもっと大事になるし、何より必死に頭を下げてくれた上条の顔に泥を塗る。 常盤台中学の模範生としても、学園都市第三位の超電磁砲としても、それ以前に上条当麻の彼女として絶対に取ってはならない行動だった。 もしも自分が常盤台中学の生徒でなかったら、と美琴は思う。 これが例えば初春飾利や佐天涙子の通う柵川中学校だったらここまで騒ぎにはならなかったかもしれない。 あるいは、美琴がとある高校の一生徒だったなら。 こんなところで上条が日頃口にする『中学生と高校生』の歪んだ例を目の当たりにして、美琴はほんの少し唇を噛んだ。 とにかく、後で上条に謝ろう。 美琴はそう思って、そこで不意に視線の束を背中に感じた。 恐る恐る背後を振り返ると、 「……へ?」 常盤台中学の生徒達―――早い話が美琴のクラスメートや下級生が熱い視線で美琴を見つめ、ぐるりと取り囲んでいる。 彼女達は常盤台中学『学内』学生寮の生徒だった。 つまり、美琴を取り囲む少女達は正真正銘箱入り娘達であり、美琴とは違う方向性で筋金入りのお嬢様達だった。 「あ、あれ? みんな何か私に用? ああ、えっと見苦しいとこ見せちゃってごめんね? ……あれ? 違った?」 お嬢様集団が醸し出す異様な雰囲気にたじろいだ美琴がひとまずの謝罪を口にすると、 「御坂様!!」 「私、感動しました!」 「素敵ですわ御坂様!!」 少女達は一様に感動や興奮を口にする。 美琴は訳が分からず首を傾げて、 「……はい?」 「御坂様と殿方がお互いを想い合いかばい合うお姿に私達とても感激いたしました! これがアガペーなのですね!! 愛って素晴らしいですわ!!」 「あの。アガペーって……」 肉体的な愛を『エロス』と名付けるのに対し、精神的な愛は『アガペー』と呼ばれる。アガペーとは見返りを求めぬ無償の愛であり、もっとも尊ばれる愛の形とされる。 ようするに、美琴を取り囲む少女達にとって教師に叱られながらも互いをかばう美琴と上条の恋愛が『崇高(プラトニック)』なものと映り、そこがどうやら箱入りお嬢様のツボに入ったらしい。 「いや私達は別にエロスとかアガペーとかそう言った高尚なもんじゃなくて……」 包囲の輪を狭め詰め寄る少女達に両手をわたわたと振って否定する美琴。 「さすがは御坂様。恋愛一つを取っても私達の良きお手本ですわ!!」 おかしな方向に気炎を上げたお嬢様軍団は美琴の言葉に耳を貸さず闇雲に美琴を褒め称える。 暴走した少女達をを止める術などもはや存在しない。 心の中で『処置なし』のハンコを押すと、美琴は小さく口の中でため息をついてからつまんなさそうに、 「……くろこー?」 「はいはい、ごめんあそばせ。失礼いたしますの」 美琴の合図を待っていたらしい白井黒子が女の子達の間に割り込み、美琴の腕を掴んで空間移動(テレポート)を実行する。 美琴が輪の中心からブン!! という音と共に姿を消すと、 「……あ、あら? 御坂様はどちらに?」 「また白井さんですの? どうしてあの方はいつもいつも……」 「御坂様ったら謙遜されていらっしゃるのでしょう。その奥ゆかしさも素敵ですわ」 少女達は口々に感想や文句を述べて、三々五々に散っていく。 美琴は白井に腕を掴まれて、少女の集団からほんの少しだけ離れた場所へ空間移動した。 少女達も慎重に辺りを見回せば美琴がそれほど遠くに移動した訳ではないことに気づけたのだが、常盤台中学にただ一人しかいない空間移動能力者(テレポーター)の判断力を高く見積もりすぎていたのだった。 美琴は隣に立つ白井に向かって、 「いつもいつも悪いわね。でも、私が困ってるって分かってるならもう少し早くに助けてくれても良かったんじゃない?」 「あれもたまには良い薬になるんじゃないかと思いましたの」 白井は後ろ手に何かを持ったまましれっと嘯く。 言葉の意味が理解できない美琴は首を傾げて、 「薬? それってどういう意味よ?」 「お姉様はご自身が超能力者である事を意に介さず、いえ、軽んじられていらっしゃるのは以前からですけれども、今回のはいささか度が過ぎていらっしゃいません? るいじ……もとい、公衆の面前で殿方に抱きついたままテレビ中継など破廉恥極まりないですわよ? 他の生徒ならいざ知らず、お姉様があのようなことをされたら先生方だってさすがに黙っていませんし、お姉様のファンを自称する生徒達があっという間に感化されることは火を見るより明らかですの」 そこで白井は一度言葉を切って涼しい顔で、 「と、わたくしがお姉様に一言申し上げる前にすでに囲まれていらっしゃいましたし、自身の行いがどれほど周囲に影響を及ぼすかは身をもって実感されたことでしょうから、これ以上についてはわたくしも口を噤みますの」 「はいはーい、毎度毎度のお説教ありがとうございます。ご心配をおかけしましたわねー」 美琴は再びげっそりした表情を作る。 さっきは先生で今度は白井か。 常盤台の模範生と呼ばれる少女は一日に二度もガミガミ言われて少々辟易していた。 超能力者の称号は美琴が目指したハードルの先でも、そのおまけでついてきた賛辞など美琴の知るところではない。 自分はただの女の子だ。恋だってするし、彼氏と一緒にはしゃぎたい。 美琴はそこで『うーん』と両手を挙げて大きく伸びをする。 ここでぶつぶつ言っても仕方がない。 美琴は気持ちを切り替えるべく自分の顔を両手でペチペチ、と軽くはたく。 白井は表情を和らげた美琴に向かって、 「お姉様。そろそろお召し替えをお願いいたしますの」 「ああ、もうそんな時間なのね。にしてもさ、これって本当に常盤台(うち)の伝統なの?」 「さぁ? わたくしは存じませんけれども」 手にした学ランを美琴にうやうやしく差し出す。 超能力開発の名門・常盤台中学では生徒の間で奇妙な伝統が存在する、らしい。 誰が言いだしたものなのかは全く見当がつかないが、曰く、 『大覇星祭では「彼氏持ち」の三年生が監督を務めるものとする』 とされている。 監督、と言ってもメガホン片手に常盤台中学が参加する全競技に張り付くわけではない。 監督が必要とされる競技にのみ、選手ではない立場で参加するだけの事だ。 「おそらくは『女子校育ちなのに彼氏がいるだなんて許せない』と僻んだどこかの誰かが始めた風習ではないかと思いますの。大方『彼氏から学ラン借りてこい』などと挑発して晒し者にするつもりだったのでしょう」 「その発想はさすがに考え過ぎってもんじゃない?」 白井の推測にいちおうツッコむ美琴。 白井は空間移動で美琴の背後に回り込むと美琴の肩に学ランをかけながら、 「お姉様もお姉様ですの。わかぞ……もとい、衣替え前の殿方さんに頼まなくても、黒子に一言言ってくださればお姉様を美しく彩る衣装をご用意しましたのに」 「試しにアンタに頼んだら、紫の生地にラメ入りでしかも背中に『愛裸舞優』とか変な刺繍が入った長ラン持ってきたじゃない。それに、アンタの学ラン受け取ったらアンタが私の彼氏って事になるじゃないのよ」 「ぐへへへ、それはそれで好都合ですの」 「……、」 美琴は妄想を滾らせる白井を無視して羽織った学ランに袖を通す。 借りてきた学ランを着てみて改めて美琴は思う。 上条は極端にがっちりとした体型ではないが、やっぱり男だ。 美琴より肩幅が広く、リーチも長い。 美琴は袖をまくって丈を調節しながら、 「うわー、分かっていたけどぶかぶかだわこれ」 背後では白井が白いたすきを美琴の肩から背中に向かって通し、交差させてちょうちょ結びに整え、 次に美琴の腰に軽く手を添えて、細かいプリーツの入った白いスコートを瞬時に履かせ、 そこから白井が前に回って美琴の胸元を軽く上から下になぞると学ランのボタンが次々と留められて、 最後に美琴の両手を取って、瞬きする間に白い手袋をはめさせる。 「お姉様、準備整いましたの」 「ん。ありがと黒子」 美琴はその場でくるりと一回転して全体を確認する。 スコートのプリーツが美琴の動きに追随して軽く舞い上がり、ふわりと落ちた。 まぁこんなものかな、と納得して、 「でさ、悪いんだけどちょっと連れてって欲しいとこがあんのよ。空間移動頼むわね」 「……嫌な予感が。いえ、むしろ嫌な予感しかしないのですけれども念のためにお聞きしますの。……どちらまで?」 「確か、うちらの競技が始まる少し前に二人三脚をやるでしょ? そこの競技場に行って欲しいの」 白井は軽くため息をついてからジャージのポケットから自分の携帯電話を取りだす。 細いスリットから飛び出した『本体』の液晶画面に競技案内のパンフレットを表示させて競技場の場所を確認し、 「……確かそれは『高校二年生』が出場する『二人三脚』であって、わたくし達常盤台中学は誰一人出場しませんけれども?」 一応の嫌味を言ってみるが美琴はそれを聞き流し、 「だから『悪いわね』って言ってるでしょ?」 「……短い時間ではありますけれどもお姉様とデートができると思うことにしておきますの」 白井は不平たらたらの表情で携帯電話をポケットに押し込み、美琴の手を握って空間移動で人混みをすり抜けてゆく。 とある高校の二年生が出場する、二人三脚の会場へ向かって。 一方その頃、とある競技場にて。 もうすぐ『二人三脚』が始まるとあって、出場する生徒達は肩を組んで走り出す練習や足を出すタイミングを話し合ったりしている。 出番待ちの生徒達に囲まれて、上条はしゃがみ込むと二つの足首を縛り付ける紐を調節しながら、 「あのさ。何で俺と吹寄が組むことになってんの? 確か俺は土御門と組むはずじゃなかったっけ」 隣で両腕を組んだまま仏頂面の吹寄制理に向かって話しかける。 吹寄は足元の上条をジロリと睨み付け、 「仕方ないでしょう。土御門がいきなり捻挫したんだから」 「だったら俺は出場しなくても良かったのでは? 吹寄だって運営委員で忙しいのに何も嫌々俺と組まなくたって」 「あたしは楽しい大覇星祭を成功させたいだけよ。それに上条、貴様は自分が去年の大覇星祭における白組のA級戦犯だと言うことを忘れたの? 貴様が去年の分まで白組に貢献できるようこうして時間を割いてペアに名乗り出てあげたんだから、むしろあたしの優しさに感謝して欲しいわね」 「そんな優しさいらねーって……」 去年はとある事件の結果初日からボロボロになるわ不幸の連発で心身共にズタズタになるわで、両親が見に来ているにも関わらず上条には全く良いところがなかった。 それら一連の出来事は全て上条の予定を無視して始まったことであり、そこでA級戦犯と呼ばれることは甚だ心外なのだが、 「土御門は今日一日使い物にならないから、土御門が出るはずだった種目は全部貴様の名前で再エントリーしておいたわ。せいぜい頑張ることね」 想定外の宣告にうげっ!! と驚愕の呟きを漏らす上条。 もはや立ち上がる気になれず膝を抱えて、 「……不幸だ」 「何をもたもたしているの? そろそろ待機列に並ぶわよ」 「ちょ、ちょっと待て吹寄。二人三脚ってのは二人の息を合わせて同時に歩くから二人三脚なんであって痛い痛い痛いまだ立ち上がってない俺を引きずるなって!!」 吹寄は上条を顧みることなく、自らの左足に上条をくくりつけたままずんずんと歩きだす。 美琴は白井と共にとある競技場に到着した。 目的はもちろん、二人三脚に出場する前の上条を一目見て、できれば激励するためだ。 白井は能力者達の二人三脚を見物しようと詰めかけた大勢の観光客達に混じって、 「『恋は盲目』と申しますけれども……」 人混みと美琴の態度、両方に対してうんざりめいた呟きを漏らす。 学生用応援席に向かうにはこの人混みを抜けなければならないので少々やっかいだ。 美琴は白井の嘆きも意に介さず、 「良いでしょ別に。あ、いたいた! ……って、何よあれ」 美琴の視線のはるか先で、上条は髪の長い巨乳の女生徒と肩を組んで出番を待っていた。 「アイツ……二人三脚の相手は男だって言ってたくせに……」 「あらあらまぁまぁ、わたくしのような恋愛初心者の目から見てもあの二人なかなかお似合いですわね。お姉様には劣りますけれどもスタイルもなかなか……って、ひぃ!? お、お姉様、群衆の只中でバッチンバッチン言わせないで欲しいですの! 漏れてます、電撃が漏れてますわよ!! どうか周囲の皆様避難を、避難を!!」 「ううう……あの馬鹿、私というものがありながら……またしても巨乳……」 「おおお、お姉様しっかりしてくださいまし!! よ、良く見れば女の方は大したことないですし嫌々組んでいるようですから大方パートナーの方にアクシデントでもあったのでしょう。ですからどうかお姉様、気をお鎮めになってくださいまし!!」 「うううう……」 美琴はガルルルと凶暴な唸りを上げんばかりに上条をひたと見据え、微動だにしない。 その時、上条は首筋に冷ややかな視線を感じた。 何だかチリチリと焼け付くような痛みさえ覚える。 上条は右手で首をさすりながらキョロキョロと辺りを見回し、 「……ん? 何だ? 誰かが俺を睨んでるような……げえっ!? み、御坂?」 突き刺さるような視線の持ち主は美琴だった。 遠くにいてもはっきりと分かる、鬼気迫る形相。 しかも全身に青い火花をまとわりつかせている。 美琴の周囲の人々が美琴を遠巻きにしているのも見て取れる。 上条は嫌な脂汗をダラダラと背中にかきながら、 「な、何で? 何でアイツはあんなに怒ってんの???」 「ほら上条、列が動くわよ。貴様もとっとと歩きなさい」 吹寄は自分の左足で上条の右足を引きずり、上条の左肩に自分の左手を回す。 その瞬間。 ギィン!! と音が聞こえるくらい美琴の表情が険しくなる。 上条は血相を変えて、 「ぎぇ!! ま、まさかアイツ、二人三脚で俺が吹寄と組んだのが気に食わないのか?」 「さっきからゴチャゴチャうるさいわね。さっさと歩きなさい!!」 「ま、待って吹寄! お、俺は今二人三脚どころじゃなく命の危機が痛い痛い痛い二人三脚なんだから歩く足を合わせる努力を、努力を!!」 上条が何故慌てたり顔色を青くするのか理解できない吹寄は、屠殺場へ家畜を連れ出すように上条の肩に手を回し、 それに比例して美琴の体を包む火花が放電レベルへと変わっていく。 上条は吹寄の動作に合わせつつ後ろを振り返って、 「こ、これは浮気じゃない! 誤解だ!! 浮気じゃないからそんなバチバチ言わせるなお願い頼む怒らないでああもう不幸だ――――――――――――ッ!!」 上条の叫びは群衆のざわめきにかき消されて美琴の元には届かない。 御坂美琴は綱引きが行われるとある大学のグラウンドに移動した。 というより、感電を覚悟の上で白井が空間移動でここまで引っ張ってきたのだった。 「お、お姉様……殿方のことは脇に置いて気持ちを切り替えてくださいまし……わたくし達の綱引きも始まることですから」 美琴の足元でうずくまる白井の体操服はところどころがうっすらと焦げている。 「わ、わかってるわよ。こっちはこっちの競技に集中しないとね」 美琴は両腕を組んで肩を聳やかす。 そう言ってみたものの、上条が髪の長い(しかも巨乳の)女生徒と肩を組んで鼻の下を伸ばしていた(ように見える)のだから、美琴の心は落ち着かない。 (あの馬鹿、こっちの競技が終わったら絶対とっちめてやるんだから。さっきの件で謝るのもナシ!!) 鼻息も荒く、頭に巻いたハチマキを締め直す。 細い指先が刺繍の部分に触れて、 (私の名前が入ったハチマキ締めてんのに、何で他の女といちゃつけんのよ……) 唇を噛みもう一度ぎゅっ、とハチマキを固く締め、正面を見据える。 その視界の隅を見覚えのある人影が横切って行く。 (あれ? 土御門さん……と、もう一人は……) 海原光貴だった。 体操服の上から背中に『大覇星祭運営委員』のロゴが入った薄いパーカーを羽織っている。 海原は常盤台中学理事長の孫で、念動力(テレキネシス)の大能力者(レベル4)でもある。美琴はとある事情により海原が少々(というよりかなり)苦手なのだが、 (……めずらしい組み合わせよね。つか、あの二人に接点あったっけ?) 美琴は海原と何回か喋ったこともあるので、どこの学校に通っているかくらいは知っている。しかしその学校名は、上条や土御門と同じとある高校ではない。 土御門の妹、舞夏から聞いた話によると土御門は無能力者であり、そして上条の高校に大能力者はいない。 ほんの少し考え込んだくらいでは少年達の接点が思いつかない。 能力(レベル)の違う二人は親友、と言うよりも今から大仕事を控えた男の表情で何事か会話を交わし、肩を並べて人混みの中に消えてゆく。 (……ま、いっか。こっちもこれから大勝負だし) 美琴は遠くなる二人の後ろ姿を見送って、 「ほら黒子。いつまでそうしてるつもり? そろそろ行かないとホントに―――」 「げっへっへっへっ、ローアングルから見上げるお姉様の脚線美に黒子は夢中ですの。引き締まった足首、無駄な肉のついていないふくらはぎ、かわいらしい膝頭、そして白くとろけそうなほどに柔らかい太股。いっそこのまま頬擦りしてしまいたいくらい……。ああもう黒子のこの身は愛に焦がれ、そして心は千々に乱れてぇ―――ッ!」 「乱れてんのはアンタのトチ狂った脳波でしょ!!」 足元でトリップを始めた白井の脳天に力一杯グーをお見舞いする。 上条当麻は人混みをかき分けていた。 二人三脚が終わってからすぐ美琴の元に行こうと思っていたのだが、そうは問屋が卸さなかったのだ。 あの後何故か吹寄に用具の片付けを手伝うよう命令され、その次は転んでいる老婆を助けた。競技場へ向かう途中小さな女の子が泣いているのを見かけたので木の枝に引っかかっている風船を取りに行った。それを見ていたボーイズラブをたしなむらしいお兄さん方にナンパ(?)されたのだが、そちらは全力でお断りしておいた。 上条は近くの電光掲示板に表示された時間を見ながら、 「……この時間だとそろそろ三回戦に入ってる頃かな。綱引きって言っても常盤台中学は五本指の一角とか呼ばれてるらしいし、一回戦負けはさすがにありえねーだろ」 とあるグラウンドの入場門をくぐり、キョロキョロと辺りを見回す。 グラウンドでは無駄に広い面積を使い切ってコートが二〇面作られ、綱引きが行われている。 綱引きの正式なルールによると、一チームは八名構成でチームの総重量によって階級も決められるのだが、能力者達の運動会ではそんな階級制など用意されていない。 だが全くの無差別では能力差で勝敗が簡単に決してしまう。 ということで、学園都市の大覇星祭においては『一チーム最大二〇人構成』『センターラインを超えた一切の能力干渉を禁ずる』と言う特別ルールが用意されている。 つまり握ったロープ越しに相手をビリビリさせる、あるいは空間移動でロープを味方陣地に引き込んでしまうのは反則なのだ。 「しかし、アイツが出ないのに競技の応援って何すりゃいいんだ? 『頑張れ頑張れ常盤台』とか叫ぶのか? ……うわっ、想像しただけでも寒いぞ」 上条はほんの少しだけ身震いする。 「ともかく、常盤台中学がどこで対戦してるのか探しに行かねーとな。……あれ?」 少し離れた人混みの中で懐かしい人物を見つけた。 海原光貴。 美琴のことを臆面もなく『好き』と言ってのけたさわやか少年だった。 彼は馬鹿デカいレンズを取り付けた高価なデジタル一眼レフカメラを三脚に取り付け、競技場の方に向けている。 腕に『記録係』という腕章が巻かれているのが見えるので、卒業アルバムに載せるための写真を撮っているのかも知れない。 (でも待てよ。確か海原は二人いるんだったよな。アイツはどっちだ?) 美琴の事を『好き』と言った海原は『ニセモノ』の方で、本物は念動力の大能力者だ。 だが偽海原は少なくとも外見は本物海原にそっくりなので、アステカ魔術を使う少年が尻尾を掴ませない限り上条には見分けがつかないのだ。 (うーん……どっちでも良いか) などと上条が考えていると、人混みをかき分けて褐色の肌の少女が海原に近づき、背後から海原の耳を思い切り引っ張った。 洒落にならない痛みで耳を押さえ悲鳴を上げている海原と怒り顔で今度は頬をつねり上げる少女の雰囲気から、彼女と海原がごく親しい間柄というのは離れた位置でも見て取れる。 少女がいつか見たことのある偽海原と同じ肌の色を隠そうともしないところから、おそらく少女は偽海原の知り合いで、つまり殴られた方は偽海原らしい。 (アイツ、御坂の事が好きとか言っておいてちゃっかり可愛い女の子をキープしてんのかよ。……うらやましいぞ) 上条が見当違いの感想を胸の中で綴っていると、コートに少女達の一群が現れた。 襟刳りと胸元のV字、そして袖口が臙脂に彩られた競技用ユニフォームに身を包んだ『五本指の一角』常盤台中学の生徒達だった。 少女達を率いるのは、白いハチマキをきりりと巻いて、サイズの合わない学ランに白たすきを掛け、ひらひらな白いスコート姿に白手袋で固めた、一言でまとめると『旧世紀の応援団コスチュームを纏った』御坂美琴だ。 『外』とは科学技術で二、三〇年は先を行くと言われる学園都市で『中』にいる学生が前時代的な服装をしているという事は、いわゆる対抗文化(カウンターカルチャー)の模索であり発露であり、見方を変えて露骨な表現をすれば一種の晒し者(きゃくよせぱんだ)である。 だがそんな事には関係なく、観客達は可愛い女の子がコスプレして出てきたという事実にのみ盛り上がり、もはや勝敗の行方など誰一人気に掛けていないように見える。 美琴の登場で口々に騒ぎ立て手元の携帯電話のカメラを使って美琴を撮影する学生達に混じって、 「うわぁ……。俺の学ラン貸せって言うから何すんのかと思ったらこういう事だったのか」 美琴(アイツ)なら何を着ても似合うけどそれって若干時代錯誤気味じゃねえか? と上条は正直かつ場違いな感想を胸の奥にしまい込む。 そこで目の前の人混みが動き、中から頭に花飾りを乗せた小柄な女の子がはじき出された。 (まずい、このままだと転ぶぞ!!) 上条は咄嗟に両掌を前に突き出し、仰向けにひっくり返りそうになった女の子を支える。 初春飾利は今にも溺死しそうな思いで人混みをかき分けていた。 とあるグラウンドに用意された学生用応援席は何故か大賑わいで、試合が始まるのを今か今かと待ち構える人々でごった返していたからだ。 周りの人々の雰囲気で、試合がまだ始まってないというのは分かる。 しかし、悲しい事に初春の身長は一六〇センチに届かず、この押し合いへし合いの中では前の様子が全くもって見えない。体力もないので押しても押しても後ろへ押し返されてしまう。 右を見ても左を見ても人、人、人で埋め尽くされて、グラウンドの土さえ視界に入らない。 この時の初春は知らなかった。 たかが綱引きでこれだけ混雑する理由が御坂美琴のコスプレ紛いの衣装にあることを。 初春は友人である白井と、そして美琴の応援のため風紀委員の仕事を抜け出してここへやってきたのだが、 「こ……困りました……まさかこんなに混んでるなんて大誤算ですよ……。御坂さんに、白井さん……はあぁ……み……見えませぇん……」 後ろの方に向かってどんどん人波に押し流される。 人の流れに抵抗して前に進もうと努力するが、人数差はどうにもならない。 相撲の突っ張りを食らったみたいに体が仰向けに傾き、転びそうになったところで、 「よっ……と」 とん、と。誰かに押しとどめられた。 「大丈夫?」 「は、はい……すみま……えええええええ!?」 初春の両肩を掴んで支えてくれたのは、どこかで見た事のあるツンツン頭の少年だった。 少年は初春の悲鳴がかった奇声に慌てて、 「ちょ、ちょっとストップ! 叫ぶのストップ!! 俺は痴漢じゃねーから!! お願いだから風紀委員呼ばないで!!」 「あ、あわわわ、すみませんっ! そんなつもりじゃないんです!!」 風紀委員の仕事サボり真っ最中の初春は押しくらまんじゅう状態の真っ直中で頭をペコペコ下げる。 頭を上げて相手の顔を改めて確認すると、 (ど、どうしよう! この人、御坂さんのでこちゅー彼氏さんじゃないですか!!) 「? あの。俺の顔に何かついてます?」 「いいいいいいいえ! 目と鼻と口くらいしかついてません!!」 咄嗟に意味がよく分からない切り返しをしてしまう初春。 少年はポリポリと頭をかいて、 「君も綱引き見に来たの?」 「えーと、友達が出場してるんでその応援に」 「そっか。でもこれじゃ全然見えねーよな」 人でぎっしり埋まった学生用応援席を見回す。 「よし。前の方まで行くから俺についてきて」 ツンツン頭の少年は初春の手を掴み、 「はいごめんなさいよ、ちょっくらごめんなさいよ」 とか何とか言いながら人混みを無理矢理かき分け始めた。 初春は想定外の事態にやや呆然としながら、少年に手を引かれ先ほどよりはスムーズに前の方に向かって進んで行く。 (……彼氏さん、私達とプールで出会った事は覚えていないみたいですね) 初春からすれば少年は監視カメラに映っていたり美琴へのでこちゅー現場を生で見てしまったりの『知っている』状態だが、少年からすると『この子どこかで会ったっけ?』くらいの認識しかない。 初春はツンツン頭に巻かれた白いハチマキを何となしに見ながら、 (私が御坂さんの友達って言うのは知られない方が良いかも知れませんね……ぶほわっ!) 「ん? どうかしたのか?」 うっかり吹き出してしまった初春をツンツン頭の少年が振り返る。 「い、いえっ! 何でもありません!」 初春は空いてる手をわたわたと振って否定する。 初春飾利は見てしまった。 白い糸で施されているので良く見なければ気がつかないが、少年の頭に巻かれたハチマキには針裁きも鮮やかに『御坂美琴』と刺繍されている。 (こ、これって絶対御坂さんが刺繍して渡した奴ですよね! ぷぷぷ、御坂さんがこんなに独占欲の強い人だなんて初めて知りました!! こ、これは写真メール撮って佐天さんにも見せてあげないと!!) 初春はジャージのポケットから二つ折りの赤い携帯電話を取り出し、カメラモードに切り替える。 ハチマキの裾はゆらゆら揺れて焦点(フォーカス)がなかなか合わないが、ツンツン頭の少年が立ち止まった一瞬に初春はぐっとボタンを押し込んだ。 盗撮防止のシャッター音がやけに大きく感じられたが、少年は気づくことなく初春の手を掴んだまま前へ前へと進んでゆく。 初春は携帯の液晶画面をメール作成に切り替え、ポチポチと文字を打つと今撮ったばかりの証拠写真を添付し、友人である佐天涙子に送信した。 (こ、これは面白いものが撮れてしまいました!! あとで佐天さんと合流して、御坂さんを呼び出す算段を整えなくては!!) 初春の頭上で花飾りが揺れる。 溢れかえるほどの人混みの中で、花だけが初春の企みを見抜くようにゆらゆらと揺れる。 常盤台中学と対戦するのはどこかの高校らしく、美琴達より二回り以上の体格差を誇る男子生徒の集団だった。 不敵な笑みを浮かべる少年達に少女達は余裕の表情で対峙する。 学生達が持つ能力にも相性の善し悪しというものがある。そこをついてしまえば五本指の一角だろうが二本目だろうが恐れる必要はない。 おそらく少年達は相手校の能力者を統計立てて計算し、最適の反撃(カウンター)を放って勝ち上がったのだろう。 超能力開発の名門・常盤台中学と言えど所詮中身はただの女子中学生だ。 おそらく彼らはそう値踏みしているが、才媛軍団常盤台中学は『エース』と呼ばれる美琴をあえて監督に据えている。 つまり、美琴がいなくても勝てる布陣を敷いたと暗にアピールしているのだ。 本当は美琴の能力がこの競技に限りあまり役に立たないからなのだが、何故か相手が勝手に誤解して、前二つの試合は不戦勝となった。 美琴は少女達を集めて円陣を組むと、 「一回戦、二回戦は相手が棄権したからここが事実上の『お披露目』ってことになるけど、気を抜かずに全員の呼吸を合わせて決めるわよ。いい?」 「おーっほっほっほ。御坂さん、そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。この婚后光子が一瞬で片をつけて差し上げましてよ」 「相変わらず空気を読まない方ですの……」 婚后の隣で肩を組んだ白井が眉をひそめる。 美琴はあはは、と苦笑いして、 「こ、婚后さんは私達の秘密兵器だから今回は温存ね」 作戦を確認すると少女達は一〇人二列に分かれ、自分の持ち場につく。 美琴は並んだ少女達からやや離れた場所に位置取り、右手を空に向かって伸ばす。対戦校の監督も自軍の近くに陣取って開始の合図を待つ。 白いラインを挟んで左右に散った少女達と少年達が向かい合い、一本のロープに手を掛けた。 その瞬間競技場がしん、と静まりかえる。 『Pick up the Rope』の合図で互いにロープを強く握りしめ、 『Take the Strain』の掛け声で全員が綱引きの体勢に入り、 『Steady』の声で静止し、 『Pull』の合図と同時に美琴が右手を振り下ろすと、 常盤台中学側の陣地がボゴン!! と何かを踏みつぶしたような音を立てて一〇センチほど陥没した。 砂煙がもうもうと舞い上がる中で、相手より『低い』位置に陣取った少女達は苦もなくロープを引っ張り、体格も体重もはるかに上の少年達は悲鳴を上げながら引かれるまま全員前方につんのめって倒れる。 大能力者でも集中力を乱されたら即座に対応できない。まさしく電撃作戦(ブリッツクリーク)だ。 判定係は二〇人の少年達が全員無残に地面に突っ伏したのを見届けて、 「勝者、常盤台中学!!」 判定の声に少女達は飛び上がって喜ぶわけでもなく、転んだ少年達に手を差し伸べて立たせ、淡々と能力で地面を元に戻す。 一撃必殺(ワンターン・キル)。 相手の出方も、能力の相性も一切関係なく、 それでいて能力を相手に直接使うことなく、 物理法則を逆手に取って常盤台中学は勝利した。 「身体能力強化を使うんじゃなく、重力操作系か念動力で足元えぐり取って人為的に高低差を作り出し、文字通り相手を『引きずり下ろした』のか。にしても複数の能力者がピタリと息を合わせて発動させるなんてさすが常盤台だな」 上条が感心していると、コートの中でキョロキョロと辺りを見回していた美琴と目が合う。観客達の中にいるであろう上条の姿を探していたらしい。 上条がおーい、と呼びかけながら手を振ると美琴の表情がぱっと明るくなり、それから何を思い出したのか不機嫌そうに目を細め、ぷいと横を向いた。 上条は振っていた手を引っ込めて、 「うげ……アイツまだ怒ってんのかよ」 何も悪い事はしていないのに、何でこうなるんだろう。 熱狂する観光客と応援の人々に混じってただ一人、 きっとこれから、 何も悪い事はしていないのに土下座しなくちゃいけないんだろうなぁ、と上条はぼんやり思うのだった。 綱引きの第四回戦以降は二日目に行われる。 と言う訳で、上条は手空きになった美琴をとある校庭の隅へ連れてきた。 人気のあまりない校庭にはフェンスに沿うように常緑樹が一定の間隔を開けて植えられている。 無造作に伸びた木の枝は盗撮対策の目隠し代わりだ。 そんな名目で手入れされたとある木の根元で上条は土下座の準備をしながら、 「……あの。これって冤罪だと思うんだけど」 「そうね。冤罪かも知れないけど、『彼女』の目の前でアンタが他の女の子にうつつを抜かしてたのは揺るがない事実でしょ」 学ランを着た美琴は腕組みをしたまま足元の上条を冷たく見つめる。 二人の姿はまるでどこかの女番長が気弱な男子高校生を揺すっている構図に見えなくもない。 上条は傲然と顔を上げて、 「どこをどう見ればそうなるんだよ!! 俺は二人三脚の準備をしてただけだろ!!」 「じゃあ何で二人三脚の相手が男だなんて嘘つく訳?」 「嘘なんかついてねーよ! 土御門が足を捻挫して今日一日動けないからって、運営委員やっててたまたま競技の割り当てがなかった吹寄がヘルプで入っただけだ!!」 「何言ってんのよ」 はぁ、と美琴はため息をつき、 「土御門さんなら元気よ? 綱引きの前に見かけたけど」 「はぁ?」 今度は上条が素っ頓狂な声を上げる番だった。 どういう事だ? 怪我したはずの土御門がピンピンして歩き回ってる? つまり土御門は嘘をついてでも自由を確保しなければならないという事だったのか? 土御門は自分自身を『嘘つき村の村民』と称して憚らない男だ。 だがその嘘はいつだって『使う必要があるから』ついている。 上条は地面に向かって顔を伏せたまま、 「考えろ。考えろ上条当麻。土御門が嘘をつくのはどんな時だ? 去年の大覇星祭で何があった? 今年はあんな事が起きないだなんて誰も保証してくれねえんだぞ?」 「こら、何をぶつぶつ言ってんの?」 美琴は去年、大覇星祭の裏で起きたとある事件の顛末を知らない。 だけど上条は知っている。 土御門がどんな気持ちで世界の裏を駆け抜け、小さな思いが積み重なって築かれた社会同士の摩擦を防ぐために日夜暗躍している事を知っている。 (きっと土御門は何かを抱えている。それなのに俺はこんなところでこんな事をしていて良いのか? 俺にだって何かできる事があるんじゃねえのか?) 「何を一人で考えこんでんのよ」 頭をコン、と小突かれた。 顔を上げると、その場にしゃがみ込んだ美琴が上条の顔をのぞき込んでいる。 美琴はやれやれ、と言いたげな表情を隠しもせずに、 「さっきから人がさんざんお説教してるって言うのに、アンタと来たら右から左に聞き流して、あまつさえ難しい顔して別の事考えてんだもの。怒鳴るだけ馬鹿みたいじゃない。ほら立って」 美琴は上条の手を引っ張って立たせると、 「その様子じゃあの巨乳女の事もきれいさっぱり頭の中から消えてるみたいだし、二人三脚の事はもう良いわ」 「え? 巨乳が何だって?」 「なっ、何でもないわよ!! つかそんなとこだけ反応すんなっ!! ……それより、さっき何を考えてたの?」 上条の前に立ち、小首を傾げてみせる。 ぐい、と顔を近づけて声をひそめ、 「……もしかして、何かまずい事態でも起きてるとか?」 「いや……そうじゃねえ」 上条は首を横に振る。 懸念を美琴の前で隠し通すのは得策ではない。 むしろ話しておけば少なくとも美琴は納得するし、そこから先は自分の意志で考えるだろう。 「単なる俺の思い過ごしかもしんねーし、本当に何かが起きてるなら否応なしに巻き込まれてると思うんだ」 俺って不幸体質だし、と上条が付け加えた言葉に重なってプツン、と言う奇妙な音が響き、続けてパサリ、と何かが滑り落ちる音がした。 どうも腰の辺りがスースーするような気がして上条は音のする方向、つまり自分の足元を見て、 美琴が上条の動きにつられて下を向く。 上条の足首付近に青色の短パンが引っかかっている。 「……ん? これ誰の……?」 「……、」 上条の足元に落ちた短パンから視線をやや上にずらした美琴の動きがビキン!! と凍り付く。 ガバッ、と自分の顔を両手で覆う美琴の視線の先を目で追った上条は、 「……げっ!? これ俺の……って事は御坂! 馬鹿こっち見んな!!」 咄嗟に両手を使って下着を美琴の視界から覆い隠す。 そこへ、 「今わたくしのお姉様レーダーは感度最大! 地球の裏側でもお姉様を捜し出せますの!! 感じる、感じますわ!! こちらにお姉様がいらっしゃるのですわね!! 待っててくださいお姉様今すぐ黒子がお迎えに―――ッ?」 空間移動を駆使して美琴を探していた白井が下着丸出しの少年と何とも説明しにくいポーズで固まっている少女を見つけ、 その場に着地すると羽織っていた常盤台中学指定ジャージから空間移動で金属矢を取り出し、 「風紀委員(ジャッジメント)ですの! そこの類人猿、婦女暴行並びに猥褻物陳列罪その他諸々の罪で即刻死刑ですの!! 粗末な物体ごとその体をぶつ切りにして差し上げますからそこから一歩も動くなァああああああああっ!!」 「ちょっと待て白井! お前風紀委員だろうが!! いきなり俺を殺しにかかるんじゃねえ!! そもそも粗末な物体って何の事だ!!」 理不尽な要求に向かって叫ぶ事で抵抗する上条。 しかし足元には脱げた短パン、両手は下着を隠しているのでカッコつかない事この上ない。 「問答無用ですの! お姉様の貞操を奪った罪は万死を持ってしても償いきれませんの!!」 「ちょ、黒子!! いくら人通りがないからって貞操とか大きな声で言うな!!」 美琴は顔を真っ赤にして怒鳴り返すが彼女も彼女で両手で顔を覆いながら指の隙間からチラチラ見ているので説得力は皆無である。 次の瞬間、白井黒子と言う少女を構成する顔のパーツが劇画っぽい表情に変わる。 「はっ!? まさかこの状況はお姉様自ら招いた事だとおっしゃいますの? ……よもやお姉様が殿方と屋外で致してしまうほど飢えていらっしゃっただなんて!! 一言黒子に相談してくださればお姉様の欲求不満などこのゴッドハンドでペギュ」 「それ以上喋るんじゃないわよ!!」 美琴が白井の脳天に向かって垂直にずびし、とチョップを浴びせる。 上条は両手で脱げた短パンを腰まで引き上げながらがっくりと肩を落とし、 「……不幸だ。夕べ洗濯した時にゴム紐が切れかけてたのかな」 シリアスな雰囲気が台無しである。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある底辺と頂点の禁断恋愛 上条は下駄箱で靴を取り出して、外靴と履き替える。 中靴は泥まみれで、汚かったが外靴は買い換えたばかりなのでとても綺麗だ。 ジロジロと奇異と蔑みの視線を浴びて自分の教室へ向かう。 大罪人とは同じ無能力者でも嫌い、そして差別するものなのだと。 たった三人の大罪人の1人と同じ学校だなんて、怖いと思うのも当然だろう。 上条は少し溜息をついて、教室のドアを開ける。 外とは違い、教室の中では皆が上条に挨拶をし、そして話しかけてくる。 「おう上条!訊いたぜ、御坂美琴の専属黒服学生になったんだろ?いいなー」 「給料貰えるんでしょ?上条くんの奢りで焼肉行こうよ!」 「おい、やめとけよ。上条は自分の為に金使えよ?でさ、余裕できたらクラス全員で焼肉行こうぜ?……お前は全く……金遣い荒いんだよ」 「う、うるさいなぁ化粧品を買ってたら自然に無くなるんですぅ」 少女は舌をベーッという風に出して、少年を呆れさせた。 良かった、いつも通りのクラスだと心を撫で下ろす上条。 担任の月詠小萌が出席簿を持って現れ、台が置かれた教壇から目から上の部分だけを出して、背伸びをしながら黒板に何かを書いていく。 カッカッカッというチョークの音が静かな教室に木霊する。 生徒たちはいつもとは異なるユニークで楽しげなハズの担任の醸し出す雰囲気に固唾を呑みながら、その木霊するチョークの音に耳を傾けていた。 クルッと踵を返した小萌はニッコリと生徒たちへ微笑み、そして黒板に大きく書かれた文字を指さした。 「上条ちゃんの専属黒服学生就任祝いとして、今日はシトルセルク地域へ焼肉屋にパーティーなのです!もちろん、上条ちゃんは先生の奢りですよー?」 「……小萌先生はいつも唐突なんだから、さぁ皆!行ける人はこのボードに署名しなさい!自腹だけど」 「……僕は行くでカミやん!」 「俺も行くにゃ―!」 「俺も!」 「あたしも!」 とクラスの大半がその上条就任祝いパーティーに参加し、放課後シトルセルク地域でも有名な焼肉店へ向かった。 シトルセルク地域とは無能力者地域とコーラスフラン地域と隣接している商業的施設が多い地域であり、その焼肉店は1人1500円という安さで様々な サイドメニューも含めてオーダーバイキングとなっていた。 相当余裕の無い者以外は行けるだろう。 * 「ほう……?それで遅くなったと」 「すみません美琴様わたくしめも反省しておりますのでどうかお許しをォォォ!!!」 「許さん、黒子殺れ」 「わかりましたの」 黒子、と呼ばれたものは上条を片手で投げて、そしてコンクリートの壁に磔にされた。 数本の鉄矢が上条の制服を貫通しており、コンクリートに螺子の様に打ち込まれていた。 両足、両手の服が壁と縫い合わされていて、下手に身動きすると怪我をする可能性があった。 「くそっ、なんだこれ!?」 「わたくしの『空間移動』の能力ですの。これからどうぞよろしく、専属黒服学生様?」 「て、テメェ!こ、これどうに……って御坂さん!?どこに行くんですか!置いてきぼりにはしないでってそういうプレイなの?おーいおーい!」 上条はそれから二時間程外で時間厳守についての説明を嫌味ったらしく白井黒子に言い聞かされ、新人学生女中の佐天涙子に「うわぁ」とかなり引かれた 視線を向けられた上条だった。 そして早朝、学生女中の最低起床時間は5時30分であり、上条はその一時間前に起きて風呂場の掃除をしていた。 無駄に広い浴場を一時間かけて掃除し、そして学生女中達を起こし、白井黒子に言いつけられた調理師免許と理容師免許取得の為に30分だけ勉強するという 仕事をこなし、7時に御坂美琴を起こす。 そんな上条は昨日徹夜で縫った制服に腕を通し、誰もいない屋敷の鍵をしめて学校へ向かう。 「あれ、佐天さん。どうしたんだ」 「ああ、チーフ……。ちょっと転んで」 「それほど酷くないな。絆創膏……あったな。自分で貼れるか?」 「ありがとうございます」 昨晩、大雨が降ったのか地面はドロドロで、佐天のスカートは泥まみれになっていた。 上条は遅刻寸前だったが、何かを決意したというか思い立ったのか佐天の手を掴んで屋敷まで戻る。 「え?」 「さぁ、脱いで」 「へ?」 「だから、ドロドロだから洗うんだよ。少しっていうかかなり遅刻するけどいいだろ」 「ああ……じゃあ出てって下さい」 上条はポカーンと、口を大きく開いて「なんで?」と訊いた。 佐天は顔を真っ赤にして「見る気ですか!?」と叫んだ。そして学生鞄を上条の顎元にぶつけて脱衣所のドアをバン!と大きな音を立てて閉める。 いてて、と顎をさする上条は納得した様な表情を浮かべて脱衣所から聴こえてくる布がこすれる音を訊きながらその壁にもたれた。 「なぁ、悩み事でもあるのか」 「……どうしたんですかチーフ。急に」 「いや、今朝も思い悩んでただろ」 神妙な雰囲気になった屋敷。 佐天はふぅ、と一息おいてから上条にその心中を告白する。 「あのですね、実は罪人になったっていうのは嘘なんです。知り合いが大罪人になっちゃって。 それにあたしも関わってたんだけど、罪をかぶってくれて。 罪名は『国家反逆罪』ですよ?別に学園都市は国家でもなんでもないのに」 「……大罪人か。俺と同じだな」 「チーフも……大罪人?」 「ああ、有名な話だ。『第七学区内乱事件』で起こった『CTRR事件』。俺が起こしたんだ」 「史上最悪と言われてるアレですか。詳しい事は……解ってませんよね。アレってどういう事何ですか?」 佐天の問いには答えない。 着替え終わった佐天は少し暗い表情で脱衣所から出てくる。寝衣だ。 制服はすぐに洗濯機に入れて、急速に洗い始める。 佐天はコレ以上訊くのは少し失礼か、と考え違う話題を探していた。 彼女自身、『何故、御坂美琴の学生女中に志願したのかという問いは答えれない』訳なのだが。 「何か、喉乾いたな。お茶沸かすの忘れてたし……買ってくるわ!」 「はぁ、そうですか……」 上条は財布を持って、コンビニに向かう。 この時間帯だと自治団体に声をかけられそうだが……上条は大丈夫かと楽観的に見て走る。 その道中で、彼女を見た。御坂美琴。 しかし常盤台の生徒がこの時間帯にここに居るのだろうか?まだ9時過ぎとはいえ、この時間帯にはおかしい。 軍用ゴーグルを頭につけて、サブマシンガンを片手で持って辺りを見回していた。 「おい、御坂?」 「はい、なんでしょうか。とミサカは声をかけてきた見知らぬ少年に対し、警戒心を込めながら返事します」 「……御坂じゃ……無いのか」 「ミサカですが?」 「訳わかんねぇ、もしかして御坂の妹か何かか?」 「そうですね、といっても遺伝子レベルで同じですが」 「それにしても似てるなー、双子か?」 上条は舐め回す様に御坂の妹と言い張る少女を見る。 「おっと、もうこんな時間ですか。とミサカは時間に厳しい側面を見せながら目的地へ向かいます」 「?、何かするのか?」 「何って―――――廃棄処分ですよ」 意味が分からなかった。 しかしサブマシンガンを持ちながら、中央通りを徘徊するのはいかなるものか、と上条を呆れされる。 引きつった笑みを浮かべながら御坂妹を見送った上条はデジタル腕時計を見て焦りながら何も買わずに屋敷に戻る。 * 「た、ただいまーっ」 「遅かったですね、もう乾いたんで行きますよ?チーフはどうするんですか」 「俺はもう今から行くのも面倒くさいし、このままサボるわ」 「そうですか、じゃあ」 上条は佐天の居なくなった屋敷の個室のソファーにダイブした。 「アレ……マジ誰だったんだ」 第三話 『廃棄処分される人形達』 上条は、目を大きく開いていた。今日は休日だ。しかし佐天涙子は補修、御坂美琴はゲコ太というカエルキャラクターを買い集めるとかで居なくなり、白井黒子は能力開発についての講習があるらしく上条は1人だった。 「……散歩でも行くか」 散歩なんて、超貧乏時代なら出来なかっただろう。御坂様々だな、と感謝しながら靴をはいて外に出る。 眩いばかりの光がコンクリートを反射して目に入ってくる。 眉をひそめながら歩き出す。 休日とはいえ、忙しい学生も多いらしく上条は呑気な表情で眺めながら大きな欠伸をした。 ふと、上条は『違和感』というか懐かしい感じがし、後ろを振り向いた。 軍用ゴーグルを頭に装着している少女は誰だ。御坂美琴だった。昨日の少女か?と悩んだが御坂美琴にしか見えない。 まさか娯楽地域のヲタクタウンまで軍用ゴーグルを買って行っていたのか、と上条は裏路地に消える御坂をこそこそと追いかけていく。 しばらくし、御坂は学園都市でも『選ばれた』研究所の裏口に入っていき、上条もまたその裏口から追う。 「……誰ですか?」 「見つかったか……?」 息を潜める。ガチャッと何かの音がして革靴の音を木霊させながら近付いて行く。 突然、ババババババ!!!と銃声がすると上条の隠れていたコンテナに衝撃が走る。 キュッ、と方向転換した音を上条は聞き取ると御坂じゃない誰かのサブマシンガンを蹴り飛ばす、が。吹き飛ばされたサブマシンガンは磁力により御坂ではない誰かの手に戻る。 そして銃弾を装弾し、再び上条目掛けて引き金を引く。 上条は異能を持つ人間じゃない。到底、銃弾を避けるスキルも止めるスキルも、弾き返すスキルもない。 となると隠れて、好機を探すしか無い。 「嘘だろ!?」 上条の肩に跳弾がかする。 「計算しています、とミサカはネットワークを駆使しながらあなたを処理します」 「ネットワーク、どういうって!危ないな……」 「甘いですね、とミサカはあなたの行動を嘲笑します」 鋭い蹴りが上条の腹部に突き刺さり、地面に膝をついて倒れる。 見下ろす形になったが、少女は上条を踏みつけてサブマシンガンを頭部へ向けた。 引き金を引けばこの少年は簡単に死ぬことになる。 「お前がッ!甘い!」 上条は少女の足に護衛用に渡されていた軍用ナイフを突き刺し、痛みに支配された少女の苦痛の表情を見ながらも左腕で少女の右頬を殴り飛ばす。 ゴリッ、という鈍い音が骨から聴こえ、少女はコンテナに体を打ち付けた。 少女の頭から軍用ゴーグルを外して、上条は片目で除く。中は電子線や磁力の流れなどを確認するモノで上条の周囲からも微弱な電磁波が観測された。 上条は更に奥底へ進んでいく。大きな空洞に出て、鉄製の階段のカツン、という音が響き渡る。 軍用ナイフと殺傷力の低いフリントロック式のゴム弾を持っていたが、使う機会はまだありそうだと固唾の呑んで先へ進む。 機械音がどこかからきこえてくる。 それに合わせてグチャ、ガッ、グショッと妙な音が聴こえてきた。上条はそこから漂う血臭に吐き出しそうになった。 唐突に、銃弾が上条の肩を貫く。 「おいおい、なんで一般人がこんな所にいるんだよ」 「……だ、誰だ……ッ」 「俺か、俺は木原数多っていうここで『お給料』を貰ってるしがない科学者(サラリーマン)だよ」 * 「お前もあの中に入りたいのか?」 「……くっ」 「ああ、そうか。撃ったんだったな。血液不足だ、もうすぐ楽になれるぞ。あの中ではな、出来損ないの人形が廃棄処分されてる。 まずは毒ガスで殺し、大型のプレス機械で骨までグチャグチャにする。簡単だろ?本当はとある実験で使われるハズだったんだが」 「さ、さっき俺が。倒した奴は?」 「コンテナの周りで倒れてた奴か。10032号だった気がするわ、記念すべき10000体目の廃棄処分だ。来週には11000号まで処分する」 「……な、なんだそれは?アイツ、御坂に似てなかったか?」 「そりゃそうだろ、超電磁砲の体細胞で組み上げられた軍用クローンだ。だが、二年前の大規模予算修正で、軍用クローンは必要ないと判断されてな。 絶対能力者進化計画に使うつもりが、上の連中が決められた研究所しか使わないモンだから樹形図の設計図の使用許可は降りない。 アレが無かったら、どうしようもない。処分するしか道は無いな」 「クソ……ッ勝手なことしやがって」 上条の顔に血色は無かった。真っ青で今にも死にそうな。 肩からは血が垂れていて、致命傷では無いが放っておけば死んでしまう。 最後の力を振り絞って、ポケットからフリントロック式のゴム弾を取り出す。ある程度の衝撃を加えると電気が発生する仕組みだ。 しかし木原数多は動じない。白衣のポケットから拳銃を取り出して、上条の頭へ突きつける。 「フリントロックか、今時そんな珍しいモンがあるとはなァ」 「……木原数多、俺に協力しろ」 「……頭大丈夫か。お前、自分を撃った相手に協力を頼むなんてよ!!」 「お前は、この、現状に満足してない。違うか」 「大した洞察眼というか。仕方ねぇな、協力してやるよ幻想殺し(イマジンブレイカー)!」 互いに銃をしまう。上条は壁をつたってまずは病院へ向かおうとしていた。 木原数多はメモ帳に走り書きで書いたモノを上条に手渡し、手を振って未だ血生臭い廊下を歩いて行く。 上条は何度も意識を手放しそうになりながらも、一度訪れた事のある病院へ入っていく。 人は多く、上条の怪我を見ると人は絶句する。待ち時間はそれ程長くなかった。 上条は待合室でニヤニヤと笑う彼を睨みつけた。偶然か、二度と逢いたくなかった人物が目の前にいた。 「垣根帝督……」 「なんだ、前の様に帝督兄ちゃんって呼んでくれないのかよ」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある底辺と頂点の禁断恋愛
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/白紙の未来設計図 第四章『水曜日 ~Le Messager~』 (……お姉さま、起きられましたわね…) ホンのわずかな物音で、御坂美琴のルームメイトである白井黒子は目を覚ます。 その物音は、ホントにわずかなもので、いつもの白井であれば絶対に起きることはない。 しかしここ数日、まともに寝ていない彼女は、そんな物音でさえも眠りを中断させるには十分だった。 目が覚めたといっても、白井はベッドから起き上がったりなどしない。 布団に包まれたまま薄目を開けて、目の前で身支度を整えていく美琴の姿を追っていくだけだ。 (ホント楽しそうですわね……) 美琴は、まだ眠っていると思っている白井を起こさないように、細心の注意を払って着替えをしていた。 そのような姿を見て、普通の人間が楽しいだの疲れているだの判断できるはずがない。 しかし、半年以上寝食を共に過ごしてきた白井には、お姉さまの動き一つでその感情を推し量ることが可能になっていた。 (お姉さまが、幸せならばそれでもよろしいのですが……) 見苦しくない程度に身支度を整えた美琴を、白井は見送りながら考える。 行先は共同キッチン。目的はお昼のお弁当作り。 (…くやしいですが、あのお弁当は、あの殿方が食べられますのね) あくまで白井の想像なのだが、彼女の中では確定事項のようになっている。 過去の白井なら、美琴のそのような行動を許せずにいただろう。今すぐにでも飛び起きて、美琴を止めていたに違いない。 だが、美琴の幸せそうな姿を見るたびに、嫉妬に似た感情は薄らいでいた。 「お姉さまが幸せなら、あの殿方とお付き合いされてもよろしいのですが」と思えるほどになっている。 美琴が上条を好きなことは分かっている。すなわち、美琴が自分のことを恋愛対象としてみてくれないということだ。 もし、二人が付き合うようなことになったら、わずかな望みもすべて雲散霧消してしまうだろう。 当然、白井は美琴に手を貸そうなどとは思わなかった。わずかな望みの残る現状のまま過ごしていきたかった。 だから、白井は動けずにいた。 しかし… 「そろそろ動き出さないといけませんかしら…」 白井は体を包んでいた布団を思いっきり投げ飛ばすと、決意したように立ち上がる。 いつの間にか、窓の外は朝日が昇っていた。暗闇に慣れた目には日の光は痛く感じた。 「結果は吉と出ますか、凶と出ますか…」 体験入学三日目。 今まで動かなかった世界は、少しずつ動き始めていていた。 目が覚めると、いつものバスタブの中だった。 いつもは起きたときはまだ薄暗かったはず…今日はやけに明るいなあと寝ぼけた頭で思っていると、ハッとしたように勢いよく上体を起こす。 時計代わりにしている携帯電話を見ると、充電切れのようで液晶には何も表示されない。 慌ててユニットバスをでて、手近にある時計を見るとすでに起床予定時刻を三十分も過ぎていた。 「ち、遅刻だーー!!」 上条の発した声が部屋中に響き渡る。 今週に入ってからの早朝補習だったが、特に問題なく起きられていたので油断してしまったようだ。 超音速で制服に着替えると、鞄を手に取り玄関から駆け出そうとする。 が、遮るように白いものが目に入った。 眠い目を擦りながら、立ちはだかったそれは、 「とうまーおはよう。お腹が減ったんだよ。」 白い修道服に身を包んだ、インデックスだった。上条の叫び声を聞いて目を覚ましたらしい。 上条は自分の迂闊さを呪った。あの時、叫ばなければ良かったと。 「えーっと、インデックスさん。上条さんは、非常に急いでいるので朝ご飯なしということでは…」 というわけにはいくはずがない。 上条が言い終わるか否かというタイミングで、インデックスの噛みつき攻撃が炸裂する。 「インデックス!!やめて、マジ死ぬ!!」 「うぐぐぐががぐ(とうまは私を餓死させる気?)」 結局、泣く子とインデックスには逆らえませんと、大急ぎで簡単な朝食を用意する。 もちろん、遅刻ギリギリの上条にはそれを食することはあたわず、 「不幸だー」と叫びながら、学生寮の廊下を走ることしかできなかった。 上条の起床時間は、高校へ向かうバスの時間にあわせていた。つまり、寝坊をした時点で、そのバスには乗ることは出来ない。 登校時間のピークからずれている、早朝のこの時間にはバスの本数は非常に少ない。 結局、上条は朝食抜きの腹ぺこ状態で高校までの道のりを全力疾走することになる。 普段は通学路に散らばる不幸トラップを避けながら行くのだが、 今日のようにギリギリの状態では、そんなことに力を裂いている余裕もなかった。 果たして、道に転がっているボールを踏みバランスを崩した上条は盛大に転倒する。 「痛っつーやっぱりこういうオチかよ!」 右足をくじいてしまったらしい。歩くたびに激痛が走った。 ただ、不幸中の幸いか、学校まであと少しのところだったので、痛い足を引きづりながら上条は道を急いだ。 「上条ちゃん。遅いのですよーっ!」 満身創痍、ボロボロになった上条を出迎えてくれるのは、笑顔を湛えた白衣の天使などでは決してなく、 怒りに顔を引き攣らせた、身長一三五センチの化学教師、小萌先生だった。 「先生。そんなこといわずに、がんばった俺をほめてくださいよ」 上条が学校に着いたのは、補習の開始時間から十分ほど過ぎた辺りだった。 十分程度ならば、終了時間を遅らせばいいだけなのだが、小萌先生としては遅刻してきたということが許せないらしい。 「そんなことでは、社会に出てから苦労するのですーっ」 と、ご高説を賜った。 時間を無駄に出来ないとばかりに、すぐに補習が始まりあっという間に一時間が過ぎていく。もちろん、十分延長されて。 補習が終わり、机に突っ伏していると小萌先生が、 「上条ちゃんは、今日は遅刻しちゃいましたが、一応がんばっているみたいなので、プレゼントをあげますよー」 「えっ!?まさか大量の宿題とかじゃないですよね?」 と、上条は少し身構えるが、 「違いますよーちゃんとしたものです!」 「あー学生時代にやられて嫌だったことはやらないとかってやつですか?」 「それも違うのです。上条ちゃんに宿題出してもやってこないからですよーっ!」 「それはごもっともで。それで、何なんですか?プレゼントって」 小萌先生は、上条の宿題なんてやる気ありません発言で、少しムッとして表情になるが、 「先生の友人に農家の人がいまして、野菜を送ってくれたんですよーだから上条ちゃんにお裾分けです。 今日、レシピ研究やるらしいじゃないですか?姫神ちゃんから聞きましたよー」 「えーっ!?!?マジですか?」 と、上条は小萌先生の意外なオファーに素直に喜んだ。 たかだか野菜という事なかれ。 学園都市は『戦争』が始まって以来、物価上昇が続いている。それは闘いが収束した今も変わらない。 流通に問題があるのか、それとも誰かが値上がりを見越して買い占めているのかわからないが、 物価の上昇は市民生活に、いまだ暗い影を落とし続けていた。 それは学生にしたって例外でなく、いやむしろ仕事をもたず仕送りや奨学金という決まった枠で生活からこそ、 日常生活に与えるダメージは相当大きかった。 現在あれだけガラガラな学食も、戦争が始まるまでは皆が先を争うほど繁盛していた。 しかし、戦争による物価上昇は自炊派に転向させるほどになっている。 だから、小萌先生のプレゼントは、ただでさえインデックスのおかげでエンゲル係数を押し上げている上条家にとっては、 天からの恵みに相当するほどありがたいものであった。 「先生、本当にありがとうございます。俺には先生が天使のように見えますよ。もう!先生大好き!!」 「そんなに感謝しなくてもいいのですよー。職員室で預かっておくんで、放課後取りに来てくださいねー!」 と、小萌先生はなぜか頬を赤らめながら職員室の方へ消えていった。 あれやこれやで4限目が終了し、お昼休みとなった。 上条にとって、午前中の授業は空腹との闘いであった。特に4限目の体育は地獄と言っても過言ではない。 なにせ、お昼前のもっともおなかが減っているときに、冬の体育の定番とばかりにマラソンをさせられたのだ。 朝、登校のときにくじいてしまった右足は、4限前までには痛みも引いていたのだが、 マラソンを走っている途中に、再度痛み出してしまった。 「先生もう限界です」と足の痛みを訴えたのだが、「限界を超えることが重要じゃん」と言われ走り続けることになった。 上条は足が痛いということを伝えなかったので、単にへばったと誤解されたのだが、そのことにも気付かないほど彼は地獄にいた。 緑色のジャージを着ている女体育教師へ、多くの男子生徒を惑わせるほどのプロポーションの持ち主にもかかわらず、 上条は軽く殺意を覚えるほどだったのだから、そのつらさといったら推して知るべしであろう。 その地獄の体育から解放され、上条は教室に向かう。 教室で着替えを済ませれば、即ち昼休み。空腹を満たす時間となるわけだ。 いつもだったら、超高速で教室に戻って速攻で着替えているのだが、今日は右足に痛みがある。 そんなわけで、無情にもおいてけぼりにした男子クラスメイトを恨みながら、上条は一人教室に向かうのだった。 永遠と続く廊下を歩いていると、一人の男子学生が走ってくるのが目に入った。 ぶつからないようにと横に避けるのだが、彼もなぜか上条と同じ方向に避けてくる。「危ない!」と思った瞬間、二人は見事に衝突していた。 このような場合、得てしてぶつけられたほうがダメージが大きい。 上条は右足の怪我も手伝ってバランスを崩すと、目の前にあるドアに飛び込みそうになる。 思わず目をつぶって、ドア激突というさらなる痛みに身構えるのだが、「幸運」にもそのドアが開け放たれた。 衝突は避けられたものの、もちろんバランスを崩した姿勢なので、そのまま中へと突き進む。 そして、保健室にあるような布製のカーテンが張られた衝立に、 ちょうどサッカーボールがゴールネットに絡まるように顔から突っ込み、衝立とともに上条は床に倒れることになった。 上条は、とりあえず誰かに怪我を負わすことも、自らが負うこともなさそうなので、安心していたのだが、 次の瞬間、鼓膜が破れるかと思えるくらいの悲鳴が、あたりに響き渡った。 何が起きたのか一瞬分からなかったが、布製のカーテンを押しのけて周りを見ると、上条は自分の目を疑った。 そこには、楽園……もとい、下着姿の女子たちが多数いたのだ。 上条が侵入してしまった場所は、まぎれもなく女子更衣室だ。しかも、現在使っているのは上条のクラスの女子… 次の瞬間彼は悟る。 (………殺される!!) 悲鳴は鳴りやんだが、今度は物理的排除に攻撃が移行した。つまり、手当たり次第に物を投げられる。 彼女たちのかばんの中から小出しに投げてくればまだいいほう。かばんごと飛んでくることもある。 なぜか更衣室にあった、野球の硬球など様々なものが飛び交っていた。 上条は必死にそれらを弾いて自分に当たらないようにするが、数が数だけに避けきれずに直撃することのほうが多い。 当然のようにこのまま更衣室にとどまっているのは危険と判断し、この場から立ち去ろうとする。 しかし、手当たり次第に投げられた体操服や制服が上条の視界を遮った。 視覚情報を奪われ、さらに衝立の布に足を取られてしまい、上条はバランスを崩してしまった。 再度、床との激突を覚悟した上条だったが、いつまでたってもその衝撃は来ない。 その代わり、顔のあたりに妙に柔らかい感触のものが当たった。上条は、それに支えられながら倒れこむ。 先ほどまで、どんな無理ゲーなどと思うほどだった弾幕がピタリと止まる。ついでに空気までもが凍りついたようになった。 上条は顔にまとわりついた体操服やら制服やらをはぎ取ると、恐る恐る顔を上げる。 そして見えるのは、 怒りに満ちた表情の姫神の顔だった。 いつもは表情に乏しい姫神だが、月に一度あるかないかの頻度で、誰からも感情がわかる表情をする時がある。 まさに今がそれだった。 そしてその感情は、百パーセント怒りだ。 姫神の表情が、刻一刻とゆがんでいくのが手に取るように分かる。 上条は現在の状態を再確認した。 彼は姫神の上に圧し掛かり、顔は彼女の胸に埋める形になっている。 しかも、姫神は着替えの途中。つまりは下着姿である。 これは相当な制裁が来るだろうな、などと覚悟を決めていると、思わぬ方向から攻撃がやってきた。 「ア、アンタ、なにやってんのよ!!」 その聞きなれた声の主は御坂美琴だった。上条は思わず声のする方向に振り向く。 彼女は着替える前であったのだろう、つまり体操服姿のまま更衣室のドアのところに、怒りに満ちた表情で立っていた。 彼女の周りには青白い光がまとわりついている。 思わず上条は叫ぶ。 「御坂!今ここでビリビリはマズイ!!」 この更衣室には、上条のクラスの女子がいる。しかも、狙われるはずの上条の下には姫神がいた。 もし、上条に向けて電撃を放ったとしたら、間違えなく姫神も巻き添えを喰らう。 上条はとっさに左腕に力を込めて、なるべく人のいない方向へ床を転げまわる。 そして、右手を突き出した。 刹那、電撃の槍が上条目がけて放たれる。その槍は上条の右手に触れた瞬間に打ち消された。 上条は周りを見渡す。 クラスメイト達は何が起こったの分からないといった風にポカンとした表情をしていたが、誰も怪我などをすることなく無事だったようだ。 「ふぅ~」っと上条は安堵のため息をつくが…… とっても重要なことを思い出してしまう。それは、周りのクラスメイトも同じだったようで、 「出てけーーーー!」 と一斉に怒りに満ちた声を上条に投げかけるのだった。 上条は可及的速やかに、怪我をしている右足をかばいながら、四つん這いの状態でその場から立ち去ろうとする。 更衣室から出て立ち上がると、 「不幸だーー!!」 と叫びながら、片足ケンケンで教室へ去っていった。 御坂美琴は肩を落としながら、廊下をトボトボと教室に向かって歩いていた。 北側に面した廊下は、日の光が入ることもなく昼間だというのに薄暗い。 それが美琴のここに追い打ちを掛けるように、彼女の心をさらにネガティブなものに変えていく。 体育のマラソンで喉がカラカラだった美琴は、クラスメイト達から抜けて一人水飲み場で乾きを潤してから着替えに向かった。 女子更衣室に近づくと、なにやら騒がしい。どうしたものかと中にに入ってみると、そこにいるはずのない人物を見つけてしまった。 上条当麻。美琴の想いの人が更衣室の中で下着姿の女子と抱き合っている。その女子生徒は姫神秋沙だった。 その光景を目の当たりにして美琴は我を忘れて、上条に向けて電撃を放っていた。 正気に戻った美琴は後悔していた。なぜ電撃を放ってしまったのかと。 もし、その場に上条しかいなければ問題はない。彼は美琴の電撃を打ち消せるから。 しかし、姫神やその他のクラスメイトがいる中で放てば別問題だ。 狙いがはずれてクラスメイトに直撃していたら、大惨事になっていた。 上条が打ち消したとしても、彼が抱きついていた姫神に被害がいかないとは限らない。 普段の美琴だったら、電撃を放つことはしなかったはずだ。 ならば、なぜ電撃を放ったのか?美琴は考える。 上条が他の女子の下着姿を見ていたから?誰かと抱きついていたから? いや、違う。 大覇星祭のとき銀髪碧眼のシスターに抱きついていたのを見たときでも、きちんと手加減していた。 それを証拠に、電撃を食らった彼は多少痙攣をしただけだった。 抱きついていた相手が姫神だったから? 美琴にとって彼女は目下のところ最大のライバルだ。 ならば、美琴が怒りにまかせて電撃を放ったとしても不思議ではない。 でも…… そこまで考えて美琴の頭に、一つの理由が思い浮かぶ。 それはあまりにも唐突に、まるで天から何かが舞い降りたようだった。 (……私、アイツに抱かれたかった?) 美琴は顔を真っ赤にしながら、首をブンブンと横に振る。それでも、その考えは捨て去ることが叶わない。 (ち、違う。そんなことない) 頭の上から湯気でも立ち上りそうな美琴は、必死になって否定する。 なのに、彼に優しく抱きしめられる想像が消えることはなかった。 「そ、そう。あれは、単なる嫉妬。それだけよ…」 ついには声に出してまで否定していた。 教室に入ると、空気はすでにランチタイムのものとなっていた。 上条と姫神が二人で話をしていたので、「レシピ研究」に参加している美琴はそこに向かう。 美琴の姿を認めた上条が声を掛けた。 「おう、御坂。学食行くか?って、お前、顔が真っ赤だぞ。大丈夫か?」 美琴は先ほどまでの想像の所為で、上条の事を正視できずにいた。 それでも、恥ずかしくて恥ずかしくて、顔を真っ赤にしてしまう。 「…………」 言葉すら発することも出来なかった。 「御坂、大丈夫か?保健室いった方が…」 「だ、大丈夫よ!!マラソンの所為で血行が良くなったんでしょ」 上条の心配そうな声を遮るように、美琴は何とか言葉を発することが出来た。 「それならいいけど… で、レシピ研究どうする?って言っても、今日は寝坊して俺、学食しか選択しないんけどな」 「上条君。私のお弁当食べる?今日は多めに作ってきたから。」 姫神が無表情のまま、顔を赤らめて上条に言う。 さっき抱きつかれたからなのか、お弁当のことでなのか分からなかったが、どちらにしても美琴には気にくわなかった。 しかし、それよりも美琴は今の心理状態で上条と一緒にご飯を食べること避けたかった。 「アンタと一緒にいると何されるか分かったモンじゃないわ。 今日は、私は姫神さんと二人で食べるから。アンタは、一人で学食へ行ってきなさい!」 その言葉を受けて、姫神は美琴の方を見る。おそらく睨んでいるのだろう。 「お前が一人で食べろ」とでも言いたそうに感じた。 それでも、美琴はこの二人を一緒に行かせたくはなかった。最低限、自分が体験入学としてここに通っている間だけは。 「あーわかったよ。上条さんは一人寂しくお昼食べてきますよっと」 と、不服そうに立ち上がる。美琴はすばやく財布から一枚のカードを取り出すと、 「ち、ちょっと待って。これアンタにあげる」 と、それを手渡した。 そのカードはマネーカードだ。残高はあまり残っていないが、学食程度なら食べられるはず。 姫神のお弁当を、自分のせいで諦めさせたのだ。少しばかりの罪滅ぼしのつもりだった。 「おぉ~マジですか?マジ感謝ですよ」 上条は美琴の手を取り、感謝の意を表すがごとく大げさに上下に振った。 「べ、別に余ってたからあげるだけだから!そんな端数、学舎の園じゃ何も買えないし」 手を握られたことでさらに顔を赤らめた美琴は、恥ずかしさを紛らわすためにいつものように素直じゃない言葉を吐いていた。 「ごめんなさい!!」 お弁当を食べる前に、美琴は姫神に謝る。 美琴は謝るべき事がたくさんある。 電撃を放ってしまったこと、上条とのご飯の時間を奪ってしまったこと…… いくら我を忘れていたとはいえ、相手がライバルだとはいえ、許されることではないと思った。 しかし、 「別に。構わない。電撃は怖かったけれど。 それに。上条君抜きで。あなたと話してみたかったところだったし。」 姫神は特に責めるようなこともなく、いつもと変わらなく口調だった。 「あと。今日は上条君の家に行くんでしょ? あんな真っ赤な顔で恥ずかしがっていて。大丈夫?」 「それは……」 姫神の続けた言葉に、美琴は驚いた表情のまま固まってしまう。なぜなら、姫神が自分の心の中を読んでいたからだ。 あのシチュエーションならば、女子更衣室に侵入した上条に怒っていると考えるのが普通だ。 そういえば、美琴は彼女の能力を知らない。もしかしたら読心能力者なのかと思ったのだが、 「私は読心能力者じゃない。あなたは。表情がわかりやすすぎるよ」 と、またしても、心を読まれてしまった。そして、 「あなたが上条君の事好きなの。すぐに分かるくらいに。」 姫神に、今一番触れられたくないところを、それも直球で指摘され、 美琴は少しは引いていたはずの顔の熱さが、また戻ってきたのを感じる。 いよいよ、言葉を次の言葉を発することが出来ずに沈黙していたら、後ろから声を掛けられた。 「あ!姫神さん。珍しい!お昼に教室にいるなんて」 「もしかして、さっきので上条君とケンカした?ってなわけないか」 振り返るとそこにいたのは、昨日話しかけてきた発電能力者とその友達だった。 美琴には分からなかったが、さっきのは冗談だったのだろう。二人はクスクスと笑っていた。 「なんで、ケンカしてないって分かるの?」 話の軌道が変わったことで、呪縛から解き放たれた美琴は、疑問を投げかけてみた。 「そりゃねー」 「ねー。あんなの日常茶飯事だから」 「そういうこと。いちいち目くじらたててたら。上条君のクラスメイトなんてやってられないわよ」 「ま、見られるのは嫌だから、制裁は加えるけどね~」 美琴は、驚きのあまりまたしても言葉を失ってしまった。 さっきの更衣室のようなことを日常茶飯事で片付けられるほどの頻度で行っているのだ。故意以外考えられない。 自分の好きな人は、単なる変態なのかと思っていると、 「上条君のあれは。全部偶然。単なる事故よ」 「そうそう。今日のも誰かにぶつかったみたいだし」 「上条君、足怪我してたらしいしね」 と、三人がフォローを入れてきた。 事故だと分かっているから、許せるのかもしれない。ただし、過失分の制裁は加えるようだが。 「御坂さんは、抱きつかれたり、下着見られたりしたことないの?」 考えてみれば、美琴にはそういう出来事の記憶がない。 (えーっと膝枕は…あれは、私がしたんだよね…) クラスメイトほど近しい距離にいないのが原因なのかと思ってしまう。 (そもそも、アイツの前で着替えることないし…) クラスメイト以外なら一番近い距離にいると思っていたが、勘違いだったのかと考えてしまう。 ああいうイベントがあるというのが上条との距離を表しているのではないはずなのだが、美琴は多少盲目気味になっているのかもしれない。 必死に考えていると、一つだけ思いついた。それは、大覇星祭の玉入れのときのことだった。 「アイツに押し倒されたことがあるわ。『黙ってろ。ちょっと動くな』って言われて」 それを口にした瞬間、まるで、この空間だけ時間の流れが止まったように、三人の表情が固まる。 予想外のことに、美琴は慌てて、 「え?え?どうしたの三人とも」 その言葉を聞いて、発電能力者の子が思い出したように口を開いた。 「み、御坂さん。そ、それって、偶然じゃないことない?」 「わ、私たちのは完璧な『偶然』よ。着替えてたら入ってこられたり、つまずいて抱きつかれたり…」 「…………」 二人は口々に言い合っている。一方、姫神は言葉を失ったまま固まっていた。 そして、姫神は思い出したようにボソリと、 「……私。上条君にブラのホック外された。」 と、小さな声でつぶやいた。 それを聞いた二人は、詳しく教えろと姫神に詰め寄るが、「内緒」の一言で躱される。 最後に、 「あー私たちには望みなしか…」 「上条争奪戦は、姫神さんと御坂さんで決まりかな…」 と言って、自分たちの席に戻っていった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/白紙の未来設計図
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/鶴の恩返し -⑫後日談 みんなでプールへ行ってみようか プール編- 少し時間は戻り………駐車場。 「ハァ…どうしてこんなことになってるじゃん」 バスの中、黄泉川は困っていた。 忘れ去られたように最後列でグッタリしている小萌先生の生徒が一人いた為だ。 「これは……引きずって行くしかないじゃんね」 はぁ…と一つ大きな溜息をつき、黄泉川は未だに気絶している青髪ピアスを引きずってバスを降りた。 プールの受付ホールでは小萌と寮監がベンチに腰掛けて話していた。 「やっぱり息抜きは必要ですよね」 「そうですね、寮にいるとやはり終始目を光らせてないといけませんから」 そういう他愛のない話をしているが、小萌はあることに気付き寮監に聞いた。 「それは大変そうですねー、でも今、寮監さん楽しそうな顔してましたよ」 そう、今少し楽しそうに笑ったのだ。 「まあ、手のかかるのが数人いるだけですが…この仕事結構好きですから」 ああ、寮監さんもやっぱり子供が好きなんですね。小萌はそう思った。 「やっぱり好きな仕事が出来るのっていいですよね」 「ええ、そうですね」 そんな風に話していると黄泉川がやって来た。 「こいつ置いてくなんて小萌先生も寮監さんも酷いじゃん」 黄泉川と一緒に、途中で回復した青髪ピアスが受付ホールに入って来た。 「「……………」」 小萌と寮監は、すっかり忘れてた為に沈黙。 「先生方ひどっ! 絶対みんなも忘れてるはずや……どうせ、忘れられてるんや……」 激しく落ち込んでいる青髪ピアス。 それから、4人は各自のロッカーに向かっていくのであった。 □ □ □ 一方その頃 水着に着替えた面々は、この施設で最大級の中央プール付近に集まっていた。 白い椅子に座る上条と土御門、土御門の傍に立つ舞夏。 「いやー、やっぱり夏といったら水着だにゃー」 アロハ柄の黄色の水着の土御門。 「兄貴、それはいいけどわたしの友達に変なことしたら許さないぞー?」 何故か舞夏はメイド服のままであった。 「水着じゃなくていいのかよ」 「ん? これはだなー上条当麻」 そうもったいぶる様に言うと共に、舞夏はメイド服を脱ぎだす。 「ちょ、おいっ!」 上条の過剰の反応に舞夏は黒い笑み。 「ふっふっふ、何を慌ててるんだー? 下は水着に決まっているだろー」 ………すごく心臓に悪い行為だった。 そこから少し離れたプールサイド。 そこには、黒の水着を着た少年と淡い水色にヒマワリの模様が入った水着の少女。 「ねえねえ、ミサカのこの水着はどお? ってミサカはミサカはさっきから唖然としてるアナタに聞いてみる」 くるくると回って水着を見せてくる打ち止め。 「…………あ、あァ…すごく、いいと思うぜェ」 見惚れてしまった一方通行は言葉少なくそう言った。 その近くの喫茶店。 「妹さん、パフェお待ちどうさまです」 初春はこの間のパフェのタダ券で、御坂妹に初パフェを奢っていた。 「こ、これがあのパフェですか…初めて食べます、とミサカは目の前にした可愛らしい食べ物に目を奪われます」 目の前に出されたのは可愛らしいパフェで、御坂妹はそれを見て目をキラキラさせている。 「ゆっくりと味わって食べてください、この店のパフェはとっても甘くて美味しいんですよ」 一口食べるごとに頬を緩める御坂妹を見て、初春は嬉しそうにその顔を見ていた。 人のいない、いや、近寄れない…とあるプール。 「何故、貴女と二人でこのプールに一緒に入らなければいけませんの?」イラッ 白井は隣にいるムカつく女に向けて感情を込めて言う。 「さあね、そんなに嫌なら白井さん、あなたが別のプールに移動すればいいじゃない」 対して言われた本人、結標は平然と白井に言い返す。 「先にいたのは私ですが?」イライラッ 「だったら尚の事、先に出るべきなんじゃない?」 そう、このやり取りを繰り返されてはこのプールに誰も近づけない。 「「……………」」 しばしの沈黙が続き…… {流石に長く生きてるだけあって、口では負けそうですわ……ププッ} 白井は結標に少し聞こえるような感じで悪口を言う。 「白井さん……何か言ったかしら?」イラッ 白井はニヤッと笑みをつくり。 「さあ~なんのことでしょうか?」 誤魔化す事もしない態度で嘘を言う。 そこからは立場が逆転したりしなかったりで、何度も口喧嘩が始まるのであった。 一方、その頃に吹寄と姫神は…… 中央プールの端で足だけ入れながら何か相談しているようだ。 「私って印象薄いのかな。」 「そんなことないと思うけど?」 ………聞かない事にしてあげた方がいいようだ。 そして、一番遅く入った佐天と美琴はというと…… 「ねえ……佐天さん、なんで私達だけこんな離れた所にいるの?」 「それはですね、上条さんには極上のリアクションを期待したいじゃないですか」 変なスイッチが入ってしまっている佐天に連れられ、中央プールからある程度離れているカフェに来ている。 「それは……そうだけど………なにをすればいいの?」 モジモジと頬を赤らめ、上目遣いで見てくる美琴に佐天は 「それを上条さんに今すぐ見せたいんですけどね」 「ん? なんのこと?」 本人に自覚はないようだ…今のは上条に見せれば、なんでも言う事を聞かせてしまう魔法の様な体勢だ。 「まあ、少し恥らう様にしてみれば、上条さんもぐっときて御坂さんを襲っちゃうかもしれないですね」 そんな風に言って笑う佐天。 「ふーん、襲っちゃうね……って! 襲っちゃうって……えぇぇぇっ!!」 「御坂さん、声が大きいですっ」 「あ……どうもすみません………」 店の人たち全員から注目されてしまい謝る羽目になった。 そんな風に騒がせながらも佐天の意見を聞く事になる美琴。 ちなみに昼食の際はある店に全員集合する事になっているのでそれまでが水着見せの勝負である。 □ □ □ 正午。プールにアナウンスがなる。 『待ち合わせのご連絡を致します。第七学区からお越しの~』 そう、団体で来ている人達にはアナウンスをしてもらえるサービスがあるのもここの売りの一つであった。 『同じく、第七学区からお越しの土御門様御一行は南方フロアの南国プール中州にご集合下さい。』 アナウンスがそう告げ、本日来ているメンバーが南方フロアに向けて移動し始める。 「それにしても、便利なサービスだよな」 上条と土御門、青髪ピアスはアナウンスを頼んだ後に南方フロアに向っている。 「って、そないな事よりも、お前ら薄情もんやー!!! 置き去りにして忘れてたクセにその事を無かった事にするなんてー!!!」 そう、青髪ピアスは大分遅れて合流したのだ。 どうやら皆に存在を忘れ去られ、バスに置き去りにされているところを黄泉川先生が発見したらしい。 「まあ、落ち着くぜよ」 「そうだ、落ち着け」 そう諭す上条と土御門に、しぶしぶ落ち着く青髪ピアス。 「そうそう、そういえば小萌先生たちどんな水着なんやろー」 落ち着いたと言うよりは別の何かを気にしだしたようだ。 「小萌先生はピンクの子供用水着じゃないか?」 「ふっ、甘いぜよカミやん……俺様はあえて黒のハイレグと予想するぜよ」 「残念ながら、ワテは純白の三角ビキニをご所望やで~」 三者三様、今日も馬鹿全開のデルタフォースであった。上条は普通…か? 喫茶店にて 「おっ、集合時間みたいだぞー」 「そうみたいですね」 「それでは行きますか? とミサカは腰を浮かしつつ今更なことを聞いてみます」 パフェを食べていた御坂妹たちは、途中で舞夏が来たのでそのままティータイムに入っていたのだ。 「それにしても、プールに来たのに飲んで食べてしかしてないですね……私達」 「それなら午後はいっぱい運動してカロリーを消費しましょう、とミサカは提案してみます」 喫茶店を出て、南フロアに向け歩く三人。 「そうだなー、せっかくプールに来たんだから泳いだ方がいいだろうなー」 もっともな事を言う舞夏。 「まあ、みさかの妹を見た限りではスタイルはすでに抜群だがなー」 「ちょっ、舞夏さん私を哀れむような眼で見るのはやめてくれませんかっ」 「ミサカは初春さんに同情のエールを送ります、と共にミサカはかすかに初春さんに勝っていることで優越感に浸ります」 フッ、と笑みを作る御坂妹にフッフッフと黒い笑みの舞夏、泣きそうになって落ち込む初春もどこか楽しそうだ。 そして、あの11次元計算娘の二人は…… 「だからっ、貴女はいい加減にストーカーみたいに私の前に現れるのをやめてくださいませんっ!」 「同じ様な思考パターンを持つんだから、仕方ないんじゃない?」 まだ言い合っていた、というか段々酷くなっている。 「大体、以前会った時に思ってましたが……貴女は女らしさと言うものを持った方がよろしくなくて」 「ふん、そんな変態水着を着ている白井さんからそんなことを言われてもまったく同意できないんだけど……」 どっちが正論であろうか…… 変態水着ではあるが口調やら、立ち振る舞いがお嬢様のテレポーター 行動や言動は少しガサツな様子が見受けられるが、スタイルや水着は至って女の子らしいムーブポイント 「それよりも、早く向わない? さっきアナウンスなってたから」 「え、あ、そ…そうですわね」 まあどっちが正論でも、結標が一歩ひいて大人の対応をとった為に一時休戦。 アナウンスにしたがって集合場所に二人で向かう様であった。 そして…… 「結局、上条さんに会えませんでしたね」 「うう……これなら初めから当麻と一緒に回った方がよかったじゃない」 さらっと言ってしまった佐天とは対象的に、美琴は落ち込んでいる。 「でも御坂さん、その水着褒められるか心配してたじゃないですか」 「……それは、そうだけどさ」 そう言った美琴はハァ…と溜息をついた。瞬間。 ギュムッ、と誰かに抱きつかれた。 「お姉さまー、ってミサカはミサカは子供みたいに抱きついてみたりー」 どうやら打ち止めのようだ。 「おいっクソガキィ、走って転んだらあぶねェだろォがよォ……」 その後ろから一方通行が現れる。 「ちゃんと打ち止めちゃんのこと見てますねー、一方通行さん」 「まァ…それが俺の仕事見てェなもンだしなァ」 目を閉じ、めんどくさそうに頭を掻きながら佐天に言う一方通行。 「って、御坂さん? あれ、どこいったんでしょうか?」 「……ガキもいねェってことは先に行ったんじゃねェかァ?」 一瞬、目を放した隙に美琴と打ち止めは見える所から消えていた。 「ハァ……まァ、行った所は多分一緒だからよォ、ぼさっとしてねェで行くぜェ」 一方通行は佐天を促し、話しながら集合場所に向うのであった。 その二人を見送る二人の少女。 「一緒に行かなくてよかったの?」 「うん、ってミサカはミサカはハッキリ言ってみる」 美琴と打ち止めだ。少し行った所の店に隠れるようにして、二人を見ていた。 「あの二人が仲がいいのも不思議よね」 「そお? ってミサカはミサカはお姉さまの一言に疑問を浮かべてみる」 打ち止めのその一言から、普段三人の時はよっぽど仲がいいらしい。 「それじゃ、二人の邪魔しちゃ悪いから少し遠回りしながら行こっか?」 「うん、ってミサカはミサカは意見に賛同してみたり」 そう言って二人は姉妹のように手を繋いで集合場所に向うのであった。 □ □ □ 集合場所にはすでに大人3人組と吹寄、姫神の計5人が来ていた。 「さっそく集まってるみたいで何よりだにゃー」 「それはいいが土御門、店は決めているのか?」 のんびりとした口調で話す土御門に吹寄は少し不機嫌に聞いてきた。 「ん? それなら、あそこの店がそうぜよ」 そう言って指差したのは少し高そうな料理店。 「土御門ちゃん、お金は間に合うんですか?」 小萌先生も心配になる様な佇まいの店だった。 「それも問題ないにゃー、ちゃんと料金面はピンきりで予約できてるぜい」 まあ、後で皆に明細書出すから確認してくれた方が早いぜよ、そう言って土御門は黙る。 {なあ、カミやん……} {どうした青ピ} 土御門が話している最中に青髪ピアスがこっそりと話しかけてきた。 {黄泉川先生の着てる水着きわど過ぎやあらへんか?} その一言で上条はチラッと見てしまった。 {ああ、やばい……というかあんなん着るような先生だったか?} {それは多分、無頓着に選んだんじゃないかにゃー} いつの間にか土御門も戻ってきていた。 {それよりカミやんはこの話題に入ってない方がいいぜよ、このままだと危険すぎるにゃー} {ああ、わかった} そう言って上条はその輪から外れる。 どうやらこの二人は寮監や小萌先生、吹寄の水着を見て意見を言い合っているようだ。 「俺一人で時間を潰すのも無理があるだろ……」 そう上条は言うしかなかった……が {上条、ちょっといいか?} 寮監に呼ばれた。 そして、寮監の傍に行くと小声で問われた。 {あの打ち止めと言われた少女と妹さんと言われていたのは御坂の家族か?} 流石に美琴を預かっている身の寮監は鋭い。ここは隠しておくのは得策ではないと正直に答える。 {……ハイ} {ワケありか?} {……ハイ、ですが美琴の奴も本当の家族のように思ってます} {わかった、理由は聞かないでいてやる……で、それを知っているのはお前だけか?} {ここにいるメンバーだと…俺と美琴、一方通行と打ち止め、御坂妹だけです} {そうか……わかった} それっきり寮監は喋らなくなるが…… 「ふぅ、わかった……上条、御坂を頼むぞ」 「はい」 そうして上条は寮監の隣で待つことになる。 {カミやんの奴、なに話してるんやろ?} 多分、妹達がらみのことだろうな……まあ、寮監は大丈夫だろう、あまり詳しくは聞いてこないだろうからな。 {彼女の事で尋問されてるんじゃないかにゃー? 多分近づけば巻き添いくらうかもしれないぜい} 土御門は青髪ピアスに悟られない為にあえて近づかない様に言う。 {それは嫌やなー、触るな危険ってやつやな} うまくいった様だ。 回避もうまくいった事で、今度は一般のお客の水着を品評する二人であった。 それから結標と白井。初春と御坂妹と舞夏。一方通行と佐天が来て。最後に打ち止めと美琴がやってきた。 全員揃ったことを確認し、昼食をしに向う。 土御門は舞夏と、大人は三人一緒に中に入っていく。 一方通行は佐天と打ち止めと、初春は御坂妹と、結標は白井と… 吹寄と姫神は青髪ピアスを引きずって中に入って行き……上条と美琴が取り残される。 「あの、さ……」 「なによ……」 いつもと同じ二人なのに肌を露出しているというだけで緊張してしまう。 「その水着、似合ってると思うぞ……その、なんだ…ちょっといつもよりも大人っぽくてさ」 緊張からか歯切れの悪い上条。 「え、えっと……ありがと」 美琴は素直に言ってみたものの…… 「ねえ……そんなにいつもの私って子供っぽい?」 当然の疑問に少し悲しくなったりする。 「あ、いや…そういうんじゃなくてだな……想像してたのより少し大胆な水着だったというか……なんというか」 視線を合わせてくれない上条を見て、恥ずかしがってる当麻って少し可愛いかも、と思ったりしていた。 「それじゃ、さっさと入ろうぜ…皆待ってるだろうしな」 そう言って上条は美琴の手を引いて店に入って行った。 □ □ □ 昼食は騒ぎ、はしゃぎ、大いに盛り上がった。 そして、食後……皆それぞれ別れて楽しむことになる。 「それじゃ、帰る時にまたアナウンスを流してもらうからにゃー、しっかりと聞いとくんだぜい?」 土御門が店の前でそう言って散り散りになる。 白井と佐天、初春と御坂妹に美琴と上条で一組。 黄泉川に小萌、寮監と舞夏で二組目。 土御門と結標、一方通行に打ち止めで三組目。 青髪ピアスに姫神、吹寄で四組目。 こんなメンバーに別れて何が起きるといえば……平穏なもの以外のなにかだろう。 それから数時間後……… 「ハァ……なんで俺はこんなことやってんだよ」 上条は一人で6人前の飲み物を買いに行かされていた。 そう、それは数分前。 「だぁっ!!!」 不幸にもプールサイドで足を滑らせた上条は、御坂妹と白井を押し倒した。 結果…… 「あ~ん~た~は~、妹に何してくれてんのよっ!!!!」 美琴はそう言い、御坂妹を引っ張り上げ、上条に電撃をお見舞いした。 幸いにも被害者は2名。その他の被害者は無しであった。 「お、お姉様……私の事は心配してくださいませんのね……」 半泣きでビリビリと痺れる後輩に、美琴は平謝りをする事になった。 上条は打ち消して実はなんともないでいるが……言ったが最後、どうなるか保障されない。 「あの、美琴様……ジュースでもいかがでしょうか?」 笑顔と言う仮面をつけ、今をしのごうとする上条。 「あ、なら私のもお願いしますね上条さん…コカゴーヤです」 「佐天さん、ずるいです…私のもお願いします上条さん…えーと、私も佐天さんと同じ物を」 「それなら、とミサカもあなたに同じ飲み物をお願いしてみます」 ………どうやら上条さんのお財布が軽くなるようです。 「それじゃ、私は黒子の分とふたつ、ヤシの実サイダーお願いね」 「はい……」 という具合だったわけだ……不幸だ。 そうしてドリンクや焼きそばを売っているような店に来て…… 「「いらっしゃいませ、なにになさいますか?」」 どうやら二つあるうちのカウンターに、同時に並んだ奴がいるようだ。店員の声がかぶった。 「「それじゃ……」」 今度は客の声がかぶった。 「ヤシの実サイダーを3つとコカゴーヤを3つ」 「ヤシの実サイダーと黒豆サイダー、あとコカゴーヤを1つずつ」 「「かしこまりました、それでは少々お待ち下さい」」 注文も終えた所で店員が持ち場を離れて飲み物を作りに行った。 「「ハァ…なんで女の子のパシリやってんだ……不幸だ」」 隣の客と同時にまた同じ事を言った……気になって隣を見る。 「「………………」」 その客も気になってこっちを見ていた。 あれ? どっかで見たような気がするんだが……気の所為か? と首を傾げる上条。 こいつってあの時、俺をぶん殴ってあの言葉を言った無能力者だよな……? 「あの……どこかで会いませんでしたか? 俺達」 「え、あ……うーん」 上条がいきなり声をかけた所為か相手の客は少し慌てている。 「ある……と言っていいのか、ないと言っていいのか……」 「ん? どっちなんですか?」 曖昧な回答をする客に上条は不思議な顔をする。 「お待たせしましたー」 その客に注文の品が届き…… 「それじゃ、お先に」 そう言って、客は慌てて走り去って行ってしまった。 「なんだったんだ?」 「お客様、お待たせしました」 「あ、はい」 こっちも来たので、御代を払って美琴たちの元に戻ることにした。 途中、自分の飲み物を土御門に奪われるまでその客の事を思い出そうとしたが、さっぱり忘れてしまうのであった。 一方、逃げた方は…… 「はぁ、はぁ、はぁ…もしバレたらまた殴られんのか? 俺って」 最後に考えていたことはそれだった。 「はまづら、そんなに息を切らしてどうしたの? 」 「超遅いですよ浜面、それに言っている意味が超不明です」 そう声をかけてきたのは、自分に飲み物かって来いと命令した絹旗と、心配をしている滝壷だ。 「わかんなくていいぞ、それに……いや、なんでもない」 「「?」」 頭を傾げる二人、まあ、今はそれでいいかと浜面は思う。 説明するのもめんどくさいしな。 □ □ □ そしてグループの面々は…… 「で? なんで私はあなた達と一緒に行動しないといけないわけ?」 「知らず知らずにこうなってたんだにゃー」 「………………」 不満大有りの結標に、のんびりとしている土御門。 目を閉じ、二人の声にイライラしている一方通行。そして…… 「プールっていいねー、ってミサカはミサカは大はしゃぎっ!」 バシャシャシャシャ、とバタ足で一方通行に水をかける打ち止め。 「あら? ずいぶんと懐かれてるのね……ほんとにロリコンだったのね」 「まあ、それは否定できないんじゃないかにゃー」 さらにイライラし始める一方通行。 「それに……さっきから、結標も小さな男の子が近くを通るたびに目で追ってるみたいだけどにゃー」 ぶっ!と飲んでいたスポーツドリンクを噴出す結標。 「ちょ、あ、ああああああなたに言われたくないわよっ! さっきの昼食中に妹にあーんってねだってる、どっか頭が湧いてる奴に言われたくないわよっ!!!」 そして叫ぶ。 「まあ、俺様は自分がそうしたいから、そうしてるだけだからにゃー……否定はしないぜい?」 不敵に笑う土御門。 「…………」 呆れて物も言えなくなる結標。 すると……打ち止めよりも少し大きい少年が打ち止めの近くにやって来て…… 「君……名前はなんていうの?」 ナンパし始めた。 {ちょ、これはすごく面白い展開じゃない?} 結標は土御門に近寄り、耳打ちする。 {そうだにゃー、一方通行はどういう反応をするのか楽しみぜよ} そして、二人で一方通行を見る……が姿が見当たらない。 {{どこいった……あのロリコンモヤシ}} 見当たらないので打ち止めに視線を戻すと…… ガクガク、プルプル、と怯えているナンパ少年がプールで泣いていた。 「「予想通りの行動(だにゃー)」」 実は少々誤解が生じるかもしれないので説明しておこう。 少年がナンパし始め、結標と土御門が打ち止めから目を逸らした瞬間…… バッと一方通行は打ち止めをすくい上げ、肩車して少年に尋ねた。 「ガキ……ナンパするのはいいけどよォ、一生テメェの命張って守る覚悟があるなら交際を認めてやる」 「ハァ? なに言ってんのアンタ?」 「ハァ……、どうしようもねェ、ヤロォだなァおい」 「つーか、アンタだれよ? その子のお兄さんかなんか? 恋人ってわけじゃなさそうだし、つか恋人だったら引くわ」 ギャハハハと笑う少年。次の瞬間、一方通行はその少年の近くに音も無く移動し、耳元で…… {恋人じゃねェ、保護者だァ……あと言っとくがよォ、好き奴でもねェのに口説くたァ舐めた真似してるじゃねェの……次そんな事してるとこ見たら解体してやっからよォ……覚悟しとけェ、いいなァ?} ピッっと最後にプールの飛沫を飛ばし、少年の頬を薄く切り裂き、脅す。 そうして水の上を静かに駆けて場を退散するのであった。 そして、残されたのは一生ナンパのできない身体になった少年と土御門と結標。 「あのロリコンが去って、シスコン猫語男と二人きりって最悪の展開じゃないかしら」 「こっちはショタコン露出女と一緒なんてにゃー、もう少し恥じらいを持って欲しいぜよ」 「ちょっ! 今日来てたメンバーの中では結構露出少ないわよっ!」 「いつもがいつもだからにゃー」ガクガク 首を絞められガクガクと揺すられる土御門。 あ、すこし結標の胸が当たってるにゃー、幸せ? うーん、微妙なんだにゃー 別の思考をしている土御門だが結標は気付かない。 「まあ、それ以上言うなら大恥かかせてやるから覚悟しておきなさい」 「まったく、わかったぜよ」 少しだけ離れた結標に、あれ? すこし残念な自分がいるにゃーと思う土御門だった。 それから、上条が飲み物を買いに行っているのを見て土御門は 「ちょっと、トイレ行ってくるにゃー」 と言って去ってしまい。 「私も白井さんでも探そうかしら?」 と結標もプールサイドから腰を上げてどこかに向うのであった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/鶴の恩返し
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前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある異世界の上琴事情 EXTRA EDITION_2(上条さん地獄の10日間 二日目:美琴初めてのエプロン編) 地獄の補習期間に入って三日目。 補習期間であるにも関わらず、上条当麻は幸せだった。 美琴が上条の勉強を見るのはコレが初めてではない。 今までにも何度か機会があったのだが……。 その時はどうしても恥ずかしさが先に立ってしまい、キツく当たってしまう事があった。 だが、今は違う。 美琴は上条を支えたいと願い、上条も美琴に応えたいと思っている。 コレがこの二人の本来の姿なのだろう。 イヤ……チョット、違うな……。 アレが、あの仕掛けがなければ……もっとイチャイチャしてるはず。 (上琴)「「ウルサい!!!」」 そんなに恥ずかしがらなくても……。 今日は『イチャイチャ』させてあげる予定なんだけどな……。 (琴)「ホント!?」 (上)「もしウソだったら、タダじゃ済まさねえ」 ハイハイ……。 という事で、今日は土曜日。 午前中は学校に行きそこで補習。 昼からは【喫茶店エトワール】の裏で課題の勉強である。 だが、その前に……シッカリ二人でイチャイチャお昼ご飯タイムを満喫してたりする。 (琴)「ハイ、当麻。ア~ン」 (上)「ア~ン。……モグモグ……うん、美味しいぞ」 (琴)「ホントはさ……私が作ってあげたかったんだけど……午前中に外せない用事があって……」 (上)「イイよ、イイよ。その気持ちだけで嬉しいよ。それに……美琴に『ア~ン』して貰うだけで……」 (琴)「えっ?」 (上)「いつものマスターの料理が数倍……美味しくなるから……(テレッ//////////)」 (琴)「(ポンッ!!!////////////////////)エヘッ、嬉しい。……ねぇ……当麻。(じーーーーーーーーーーーーーーッ)」 (上)「(こっ、この視線は……?)……あッ、そっ、そうだ。……じゃあ、美琴にも……ア~ン」 (琴)「ア~ン。……モグモグ……エヘッ、美味しいよ。当麻」 (上)「アッ、ほっぺにソースが……ペロッ……(チュ)……」 (琴)「ふえッ!?」 (上)「アッ、ごっ、ゴメン……。そっ、その……つい……」 (琴)(ほっぺに『ペロッ』て……、その後……軽く……き、キス……?) (上)(し、しまった……。やり過ぎたか!? でッ、でも……美琴がカワイすぎて……つい……) (琴)『(ボンッ!!!)プシューーーーーーーーーーーッ!!!』 (上)「わッ!? みっ、美琴ぉッ!? ……って、アレ? 漏電が、電撃が……来ない?」 (琴)「エヘ……、エヘ……、エヘヘ……」 (上)「オイッ!? 美琴ッ!! シッカリしろ!!! ……ん?(オレ、いつの間に右手を……? もう、ほとんど条件反射になってきてるなあ……)」 (琴)「エヘ……、当麻に、……当麻に、食べられちゃったぁ……」 (上)「え゛?」 (琴)「もう……お嫁に行けない……。当麻に……、当麻に食べられちゃったから……当麻のところにしか、お嫁に行けない……」 (上)「う゛……」 (琴)「当麻に食べられちゃった……、私、もうダメ……」 (上)「オイッ! 美琴ったら!? シッカリしろぉ~~~~!?」 (琴)「ふにゃぁ~~~~……」 もう、桃色空間全開である。 それを監視(覗き見とも言う)しているアッコさんも……。 (ア)「もう、好きにして……」 と、既にサジを投げている。 コレも勉強中の『イチャイチャ禁止令』の反動なのだろう。 それにしても……あの仕掛けの反動はスゴいな……。 ある意味逆効果になってるんじゃ……。 (上琴)「「あうあう……」」 そんなこんなの騒動もあったが、時間になればあの山のような課題に取り組み始める。 ……と言うより、取り組まないとまた例の仕掛けが作動してしまうので、やらない訳には行かないのだ。 それに課題をこなしていく上で、ペナルティ・ボックスに上条が閉じ込められるのはタイムロスに繋がるのだから、出来る限り避けなければならない。 それらの理由で、二人はペナルティを科せられないように、必死に課題に取り組むのであった。 そして、夕飯近くになった頃……。 チョットした事件が……。 (上)「ウーン……」 (琴)「あ、そこはね……ココをこうして……」 (上)「え?……ふんふん……」 (琴)「そしたらこうなって……」 (上)「うんうん………」 (琴)「そしたら、どうなる?」 (上)「えッ?」 (琴)「全部私がやっちゃったら意味がないでしょ?」 (上)「うッ……」 (琴)「ほら、頑張って」 (上)「う~ん……」 (琴)「……」 (上)「あ……もしかして……」 (琴)「……」 (上)「ココをこうすれば……」 (琴)「そうそう、やれば出来るじゃない、当麻」 (上)「なるほど、なるほど。……美琴の教え方がイイからだよ」 (琴)「当麻が頑張ってるからだよ。エヘヘ」 『ピピー、ピピー、ピピー、ピピー』 (マ)『嬢ちゃん、すまねえがチョット店まで来て貰えねえか?』 マスターがいきなりインターフォンで呼びかけてきた。 (琴)「えッ!? 何? 何なのッ!?」 (マ)『ビックリさせてすまねえな。とりあえず店まで来てくれ。そしたら分かるから……』 (琴)「あ……ハイ……。一体何だろ?」 (上)「マスター、かなり慌ててたみたいだけど……」 (琴)「とりあえず行ってみるね。その間、ちゃんと自習しててよ」 (上)「ハイハイ、分かってますよ……」 (琴)「あ、そうだ! えいッ!!!」 (上)「えッ!? こっ、コラッ!? 美琴ッ? こんな風に抱きついたら、またペナルティが……」 (琴)「イイじゃない。どっちみち離れるんだもん。その前にちょろっとスリスリしとくのぉ~」 (上)「あ、あの……オレがペナルティ・ボックスに入る事は……考慮無しですかああああああああああぁぁぁぁぁぁッ!?」 叫び声と共に、上条はペナルティ・ボックスへと吸い込まれていった。 (琴)「15分経つ頃には戻ってくるからねぇ~」 そう言って、ご機嫌になった美琴は店の方へと歩いて行った。 独りペナルティ・ボックスに閉じ込められた上条は……、『シクシク』と泣きながら自習に勤しむしかなかった。 (上)『ふ、不幸だ……』 仕方無いよ。運命だもの……。 さて、店の方に移動した美琴は……信じられない光景を目にする。 何と……店がお客さんで、満席になっていた。 (琴)「ぅ、ウソ……? こんなの……信じられない」 (ア)「美琴ちゃん、サラッとキッツいコト言わないでくれる?」 (琴)「あ、アハ……アハハハハハ……」 (ア)「とは言え、ホント大忙しなのよ……」 (琴)「あ、あの……マスターは?」 (マ)「ああ……嬢ちゃん、すまねえな。急に呼び出したりしてよ」 (琴)「あ、マスター?」 (マ)「見ての通りなんでな。とても上条と嬢ちゃんの晩飯を作れそうにねえんだ。悪いがオレの代わりに作ってくれねえか?」 (琴)「え?」 (マ)「悪いが頼むよ。キッチンは裏にもあるからさ。材料は好きなもん持ってってイイから」 (琴)「あ……ハイ。分かりました」 (マ)「実はこの後、黄泉川がさ……若いの連れて来るって言ってやがるんでな。その準備もあるんで手一杯なんだよ」 (琴)「え? 黄泉川……さん?」 (マ)「昨日の一件が原因だろうな。あのバカ……言うなって言ってるのに……」 (琴)「でも……マスター、嬉しそう……」 (マ)「んなことねえよ。まぁ、若えのが来るのはイイんだけどな。大騒ぎになるのが目に見えてるからなぁ……っと、こうしちゃいらんねえ」 (ア)「アンタ、次のオーダー。カキフライ定食でデザートはコーヒーゼリー。アフターはコロンビア、それから……」 (マ)「……アイよッ。んじゃ、嬢ちゃん頼んだぜ」 (ア)「エプロンは裏のロッカーに入ってるから、それ使ってねぇ~」 その忙しさに圧倒される美琴。 だが、マスターとアッコさんはテキパキと接客をこなしてゆく。 それを見た美琴は下手な手伝いはジャマになると判断し、裏からキッチンに回って必要な材料を調達する。 (琴)「さっきカキフライ定食がどうとか言ってたっけ。じゃあ、今夜のメインはそれにしよっと」 (琴)「あ、そうだ……。当麻に言わなきゃ……」 そう呟くと、美琴は勉強している部屋の前で上条に呼びかける。 まだ15分は経っていないので、上条はペナルティ・ボックスの中だ。 (琴)「当麻ぁ~、聞こえるぅ~?」 (上)『聞こえてるぞぉ~』 (琴)「お店が忙しくて、晩ご飯を私が代わりに作る事になったから、自習しててねぇ~」 (上)『ええッ!? み、美琴が作ってくれるのか!?』 (琴)「うん、そうだけど?」 (上)『そ、それって……もしかして……エプロン姿も……』 (琴)「あ……うん、見せたげる……ね……」 (上)『おッ、オレッ! 頑張るからッ!!!』 (琴)「あ、うん。じゃあ、頑張ってね」 (上)『ああッ!!! うわぁ~、すっげえ楽しみだなぁ~~~!!!』 (琴)「……どうしてか知らないけど……エラく張り切ってるわね? ……ま、やる気になってくれるのはイイことだわ」 そう独り言を呟くと、美琴は勉強部屋の隣にあるキッチンに向かう。 そして、ロッカーからエプロンを取り出して制服の上から羽織り、料理を始める。 簡易のキッチンとはいえ、必要なモノは全部揃っていた。 美琴はテキパキと準備を進めていく。 下ごしらえを終え、後はご飯が炊きあがる時間に合わせてフライを揚げるだけである。 (琴)「うん、コレで準備OKね。じゃあ一度、当麻の様子を見に戻ろうかな?」 そう言って、キッチンを後にして勉強部屋に戻る美琴。 だが、この後起こるハプニングを全く予想だにしていなかった。 (琴)「『ガチャッ』当麻ぁ~、頑張ってる~?」 (上)「頑張ってます……よ……オオッ!?」 (琴)「え……どしたの?」 (上)(い、いきなり……かよぉ~!? でッ、でも……夢にまで見た……美琴のエプロン姿が……、今、目の前にぃ……。お、お、落ち着け、落ち着けオレッ!!!) (琴)「ど、どしたの? 当麻……? 目が……怖いわよ?」 (上)「え? あ、イヤ……アハ、アハハハハ……(まさか、美琴のエプロン姿に我を忘れかけていたとは言えない……。でも、カワイいなぁ……)」 (琴)(なッ、何? 当麻が変なんだけど? 目も血走ってるし。あ……、そう言えば、エプロン姿が見たいって……さっきも言ってたわよね?) (琴)「ど、どうかな?」 (上)「えっ!? なッ、何が?」 (琴)「だって……、見たがってたじゃない? 私のエ・プ・ロ・ン・す・が・た。エヘッ」 そう言うと、美琴はクルッと一回転して頬に人差し指を当てて、カワイくウィンクをしてみせる。 だが……それがいけなかった。 (上)『ズッキューーーーーーンッ!!!』 (上)「美琴ッ!!! おッ、おッ、オレッ!!!!! オレッ!!!!! ……もう、……もうダメだ!!! みっ、美琴ォッ!!!!!『ギュッ!』」 (琴)「キャッ!? えッ!? とっ、当麻ッ!? ……ふにゅう」 (上)「ごっ、ゴメン!! で、でも……美琴が、エプロン美琴がカワイすぎて……オレもう、抑えが……『ギュウッ!!!』」 (琴)「ふええッ!? 当麻ッ!!! そっ、そんな……いきなりッ!?(こっ、心の準備が……あッ、そんなに強く抱き締められたら……ダメになっちゃうよぉ……)」 どうやら今の上条さんには、『美琴のエプロン姿』は刺激が強すぎたようです……。 しかし……上条さんの『エプロン属性』……かなり重症のようですね。 でも、お二人さん……何か忘れてません? (琴)「ふにゅ……、当麻ぁ」 (上)「ゴメン、美琴……。……でもオレ……」 (琴)「うん……」 (上)「美琴、可愛すぎだよ……オマエ……」 (琴)「エヘッ、嬉しい……。ねぇ……当麻……」 (上)「うん?」 (琴)「わッ、ゎたっ、わたッ、私とそのッ、けっ、けけけけけけけ結婚したら……、毎日見られるよ……。エプロン姿……」 (上)「そんなコトになったら、上条さんは幸せ過ぎて死んでしまいますですよ……。ハイ……」 (琴)「バカ……。死んじゃったら意味ないじゃない……」 (上)「言葉の綾なんですけど、その通りでせうね。……だ、だから……」 (琴)「だから?」 (上)「死なないようになるまで、待って欲しいんでせうが?」 (琴)「え……?」 その時……。 『ガシッ』 上条は何かに両肩を掴まれる。 (上)「え゛?」 まだ勉強時間中ですよね。 ペナルティ・ボックス行き。 決定ですね。 (上)「ちょッ!? ちょっと待てッ!!! 待って下さいッ!! 後ちょっとだけでイイからッ!!! お願いだからぁッ!?」 それは無理です。 勉強時間中にイチャついたアナタが悪い。 15分間、反省しなさい。 そう言わんばかりの容赦ない行為に、上条はいつもの口癖を叫ぶしかなく…… (上)「ふッ、不幸だぁああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ッ」 と、美琴を置いて再びペナルティ・ボックスに吸い込まれていきました。 (琴)「……あ……」 美琴はただただ、その様子を呆然と見ているしかないようで……。 あれ? 何か様子が変ですけど……? (琴)(待って欲しいって……何を待つの? もしかして……、もしかして……でも、もしそうだったら……、どうしよッ!? どうしようッ!?) (琴)「ふ、ふ……ふにゃああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……」 『バチバチバチバチバチバチバチバチッ!!!!!!!』 何を想像したのかは知りませんが、上条の『待って欲しい』の一言に過剰反応した美琴は、ふにゃー化して漏電してしまいました。 部屋は、いざという時のために耐電仕様になっていたので、黒焦げにはならずに済みましたが……。 運が悪い事にと言いますか、いつものパターンと言いますか、当然の『不幸』と言いますか……。 何故か耐電仕様であるはずのペナルティ・ボックスの動作システムに漏電の影響が及んでしまい、上条はずっと閉じ込められ、エプロン装備の美琴とお手製の夕食をおあずけされ続けたのでした。 結局、そんなこんなのドタバタ騒ぎの所為で、上条が言った『待って欲しい』が何を意味するのかは有耶無耶になってしまいましたとさ。 ちゃんちゃん。 前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある異世界の上琴事情
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サプライズ ある日の朝、美琴の携帯に一本の電話が入る。(こんな朝っぱらに。当麻かしら。あれ?母から。)「おっはよー美琴ちゅわん!」「うるさい!!だいたいこんな朝から電話かかってくることが迷惑だとわからない訳??」「えー?ダーリンからのモーニングコールだったら怒らないくせにぃ。美琴ちゃんを驚かすために電話したの♪」「で?ダーリンからのモーニングコールではなく、驚かすために電話した理由は何なのよ?」「私、昨日から学園都市にいるの。大学のことでね♪」「全くサプライズになってないわよ馬鹿母!!」「あら。じゃあ今からとっておきのサプライズを披露しちゃいまーす♪ちょっと待ってねー。」電話のむこうでは美鈴は誰かと話しているようだ。誰かと?学園都市で母の知り合いと言えば大学の友人もいるだろう。でもサプライズと言っていたから・・・・まさか!!「もしもし?俺だー。」美鈴が代わった相手は上条当麻。美琴の恋人だ。「!!!ななななななんでアンタが私の母親といんのよ!何!?もしかして親子丼ってやつなの?相変わらずこのダメ男があああああああ!!!!!」「美鈴さん!サプライズどころか何か怒らせたみたいですよ――!」電話の奥では美鈴がただの照れ隠しよん。美琴ちゃんはまだ当麻くんに素直になれてないのねと言っている。「んで、一緒にいる理由なんだがな、ゴミ出しに外に出た時にバッタリ美鈴さんと会ったんだよ。」なんだたったそれだけのことだったのか・・・上条が女性といるだけで(たとえ母親でも)こんなに嫉妬するのが情けない。恥ずかしい。そう反省していると、「なあ。美琴の部屋は二階だよな?」「・・・・ふぇ?そうだけどそれがどうしたのよ。」「窓から顔を出してみなさい。そして正門を見てみなさい。言われた通り窓から正門の所を覗いてみる。信じられない。ツンツン頭の少年と母親が立っていた。「ちょっっ!!なんでいるのよ!?」「だからサプライズだって言っただろ?というか美鈴さんに連れてこられたんだけどな。それと早く窓から顔を出せ。俺と美鈴さんは二階のどこだかわかんねえから。」ダン!とうるさい音で窓を開けて顔を出す。(奇跡的に白井はまだ眠っている。)その音に気づいた二人は美琴のほうを振り向く。上条はおーいと手を振り美鈴はニヤニヤしながら何故か親指を立ててアピールしている。「美琴、悪いが今から出てこれるか?美鈴さんはもう大学に戻らないといけないらしいんだよ。」「そうなの?今から着替えるからちょっと待ってて!」電話を切ってからものの五分もしないうちに歯を磨き制服に着替え、髪をヘアピンで止め、白井に先に学校に行ってくると置き手紙を書いて上条と美鈴が待っている正門に走った。「はあはあ。それで、アンタ達一体何の企みがあるわけ?」「ここに来るまでに上条くんから色んな話を聞いてね♪美琴ちゃんのあんなことや・・・」美鈴が言い終わらない内に美琴は上条の胸ぐらをつかむ。「アンタ。一体何を吹き込んだわけ?」そう言いながらも顔は凄く赤い。「別にやましい事なんか話してませんよ?美鈴さんが初デートはどうだった?って聞いてきたから簡単に一日を話しただけだぞ。」しかし美琴は照れてるのか怒ってるのか、バチバチと音を鳴らし始めた。「おい!!こんな至近距離でビリビリはやめてくれ!!美鈴さんに当たったらどうすんだ!!」「アンタ!!アタシの母親側に立つ訳?まさか変な嘘とかついてないでしょうね?」「美琴からは誰にも言うなって聞いてないぞ?悪いが既に土御門とかに話したんだよ。何故か学校でみんなにボコボコに殴られたんだけどな。それと、美鈴さんには嘘偽りなく話したぞ。」「・・・・・・え?友達に話したの?それに母にはどう話したのよ!!」「・・・・・・・美鈴さんが追求してきて逃げれなかったからプロローグからエピローグまで・・・・簡単に・・・」美琴の頭からボシュっと音がなり顔がりんごのように赤くなる。「そこの二人!私を置いてなにいちゃいちゃしてんのよー。母さん一人寂しいわー。」「いや、いちゃいちゃとは・・・ていうか美鈴さん、大学に戻らなくて大丈夫ですか?」「あらホント。もう出ないと間に合わないわ。上条君、一つお願いがあるんだけど。」ゴニョゴニョと上条に耳打ち上条はそれを聞いて真っ赤になる。「美鈴さん・・・マジですか?」「大マジよ♪それに両親いっぺんに説得するより母親だけでも先に納得させれるわよ♪」うう・・と上条は呻く。美琴はエピローグまで・・・とブツブツ呟いていて美鈴と上条のやりとりに気づいてない。「わかりました。美琴のためにもですね。私上条当麻も腹をくくります。」「お願いね!!美琴ちゃんへのサプライズというより私を楽しませてね♪」(うわ。上条君かっこいい。美琴ちゃんが惚れるのもわかるわ。私も若ければアタックしてたかもね♪)腹を据えた上条はどこか決意した顔つきで美琴を見つめる。「美琴!!!」「ひゃい!」自分の世界に入っていた美琴は驚き妙な返事をしてしまう。上条は何も言わずつかつかと美琴に近寄る。(何よ急に真面目な顔して。かっこいいじゃない。)お互いの距離がゼロになり、上条は美琴を無言で抱きしめる。「ちょっっっ・・急に!こんな外でいきなり・・恥ずかしいというか心の準備ができてないというか・・・とにかく・・早くやめて・・でももう少し・・・」美琴は上条にしか聞こえない小さな声で話す。すると美鈴が少しがっくりしたような声で「初デートの最後にしたのってキスじゃなかったのね。でもさすが上条君!こうやって美琴ちゃんを骨抜きにできるんだもの!!」「驚かせて悪かったな美琴。美鈴さんがどうしても初デートの再現をしてくれってうるさいから。」「それだけでこんな事やってんの?ていうかなんで言うとおりにやってんのよ!!」「そこは深く追求しないでくれ。古傷なもので・・」「美琴ちゃん!上条君!あなたたち超お似合いよ♪こりゃ籍入れる日考えとかないとね。それじゃ、いいもの見せてもらったところで失礼するわ。多分この時間だと大学に間に合わないだろうけど。」美鈴は二人に投げキスして駆け足しながら去っていった。「・・・ねえ、ところでいつまでこのまま抱きしめてもらえるの?」「ずっと抱いていたいんだけどな。ここじゃさすがに周りの目も上条さんには痛く感じるぜ。」「あっ・・・」周り。ここは常磐台中学寮の正門。寮の生徒が学校に登校する時間帯になっていた。美琴が気づいた頃には二人の周りに大勢の生徒がいた。人ゴミから「御坂様が殿方と抱擁を・・・」「あの殿方は御坂様の彼氏なのでしょうか。」「御坂様は大胆なのですね。」とキャーキャー騒いでいた。美琴の部屋からは「お姉様ああああぁぁぁぁ!!!また類人猿ですのねぇぇぇぇぇ!!!!殺す!!!」と白井のデスボイスが。「あははは。参ったことになってしまったな美琴。サプライズにしては規模をでかくしてしまった。んじゃ、上条さんもここからだと学校に遅れそうだからもう行くからな。放課後に公園でまた会おうな!!」シュバっと上条は逃げるように走り出す。「あ!!ちょっと待ちなさい!!」と言う前に生徒達にぎゅうぎゅうに囲まれ「御坂様!御坂様!!」と質問攻めに合い上条を追いかけられなかった。身動きがとれない状態の美琴にはまだ上条の後ろ姿が見える。上条が見えなくなりそうと思っていた瞬間、上条の後頭部に白井がドロップキックを決めたのが見えた。
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side ― バレンタイン ― 2月12日、常盤台女子寮、夜 日本の女の子達にとってはほぼ間違いなく注目される日、バレンタインデーを2日後に控えここに住む女の子は皆浮き足立っていた。 チョコを意中の男に渡そうと目論む者、ただ友達に渡そうと考える者、何やら怪しい薬を取り寄せてチョコに紛らわせ薬を飲ませようと企む者、と各々心の内に秘めるこそ様々だがチョコを大切な人に渡すというと根本的な所は共通してしている。 そんな中、230万人の人口を誇る学園都市にも7人しかいない超能力者、超電磁砲の異名をとる御坂美琴もそのような事を考えていた。 結論を言うと、彼女には想い人がいる。 嘗て彼女を絶望の淵から救い出してくれた人。 嘗て彼女にかけがえのない約束をしてくれた人。 その人、上条当麻である。 彼らの出逢いは6月、複数の不良に絡まれた時だった。 彼女は内心、バカな奴だと思っていた。 自分にそんな上っ面だけの偽善なんていらない、そんなものならない方がいい。 事実、彼が首を突っ込まなくても解決していただろう。 最終的に不良を追っ払ったのは彼女なのだから。 だが、その少年はあらゆる点で他の人と異なっていた。 まず第一に超能力者たる御坂美琴の電撃を浴びて無傷でその場をしのぎきった事。 彼が見せた正義は上っ面なだけのそれではなく、例えなにがおきても揺るぎない信念に基づいての行動であった事。 何よりも、自分が超能力者であることを知っても怖じ気づかず、妙に腰を低くしたりもせず、普通に他の人と同じように接してくれる事。 さらにその他様々な要因が重なり合い、極めつけは妹達の事件と偽デートでの約束。 今まで恋愛とはほぼ対局の場所に位置していた彼女でも、心底彼に惹かれるのは最早必然。 なので今まで大覇星祭、一端覧祭そしてクリスマスと数回にわたるアタックを重ねていたが、上条が鈍感であることと彼女が素直になりきれず、まだ想いは実っていなかった。 (バレンタイン…この日は、この日こそは自分に素直になって…アイツにこ、告白するのよ!) そう意気込んでいる美琴はまず手始めに上条の予定を聞くことにしたのだが、 (うぅ…やっぱり電話は緊張する…) やはり自分のほうから電話する事はまだまだ慣れていないこともあってか、実行にまだ移せないでいた。 今までは公園や帰り道などで会い、半ば強引に約束にこじつけていたが、今は夜で明日はチョコの準備やらで忙しくのん気に街をブラブラできない。 よって上条の体質上、当日には何が起こるかわからないため、14日の予定を確保するのは丁度同室の後輩の白井黒子が風呂に入っている今しかない。 …と美琴は頭ではわかってはいるのだが、今までの電話ではある意味まともに電話をしてまともな内容の会話をしてまともな終わり方をしたことがないので、自分が焦ったりや怒ったりで会話がちゃんと出来るかが不安だった。 (ええい、きっと成るように成るわよ!) ようやく決心のついた美琴は携帯のアドレス帳から、上条当麻を選択し通話ボタンを寸前で若干ためらったが、それでもなんとか押した。 トゥルル…トゥルル… コール音が1回鳴る毎に彼女心臓の鼓動が激しくなる。 (あぁもう早くでてよ!これじゃこっちがもたないじゃない!…にしてもなんて話を切り出せばいいんだろ…なんか急に話し出すのも…) このほんの少ししかない待ち時間にもかかわらず、理不尽になんの罪のない彼にあたってしまう。 そんな少しのことに対して怒ってしまう自分が嫌で仕方ない。 「ガチャ…おーっす、何か用か?」 「$\% !!??」 美琴はよくよく考えてみれば話の内容は決まりきっていたものの、それをどうやって聞き出すのかを考えてなかった。 なのでコールしている間にまとめようとするが、動揺している頭で迅速な処理が出来るはずもなく、突然の声に驚きの余り声にならない叫びを上げる。 「うわっ!!……ってなんだいきなり!」 「あ、ああアンタが急に声だすからでしょ!?」 「電話掛けてきたのお前だろ!!……はぁ、不幸だ…」 理不尽なのはわかっていた。 それは単なる八つ当たりな事もわかっていた。 しかし、美琴は極度の緊張状態に陥っていたため、まともな思考回路はどこかへ飛んでいってしまっていた。 (あぁもうだからそうじゃなくて!なんでこう上手くいかないのよ!) どうしてこうも素直になれないのか。 どうしてこうも簡単に理不尽なことをしてしまうのか。 美琴は自分の本心とは真逆の発言に苛立ちを覚えずにいられなかった。 「……んで?何か用があって電話かけてきたんじゃないのか?」 上条の声を聞き、幾らか正気が戻ってきた。 しかも、こちらから変に話を切り出すまでもなく向こうから話を持ち出してきてくれた。 このチャンスを見逃す手はない。 「ぁ…えと、その……」 「……まさか怒鳴るためだけにかけてきた、なんてことはないだろうな…?」 まずい、と美琴は思った。 いつもならば彼女はここで怒って、話が逸れ、挙げ句の果てには本題の話をできずに電話を切ってしまうだろう。 しかし、今日この時だけは事情が違った。 目的の日に、彼女の中に秘める想いを確実に告げることができるかできないかの瀬戸際なのだから。 恥ずかしい気持ちはあった。 苛立ちもあった。 だが今回だけはそれらを抑え、唯一の目標を果たすために口を開く。 「あ、あのね…今週末の日曜日、14日なんだけど……そ、その日空いてる?」 喋る内に少しずつ声量は小さくなっていたかもしれない。 でも電話越しの彼には確実に聞こえたはずだ。 美琴はなんとか勇気振り絞り、とりあえず1つの難関を突破できた事に安堵する。 「ん?14日なら午前中は補習だけど、その後なら空いてるぞ」 「本当に!?じゃ、じゃあその日の夕方いい、かな…?」 「ああ、いいぞ」 「よかった…んじゃ待ち合わせとか詳しい事はまた明日の夜にでもメールするから…じゃあね!!」 美琴は最後は約束を取り付けた事への安心から、気恥ずかしさが先行して早々に電話を切る。 (や、やった!約束できた!にしても疲れた…やっぱりこういうのは勇気がいるわね…) できたらこんな疲れる電話はもうしたくない、と一人呟きながらそのままベッドに横になる。 約束については嬉しい反面、ずっと緊張していたため終わった後の疲労感はすごい。 そのせいか、美琴は悶々として眠れていなかった最近とは対照的に、嬉しさと疲れが相まってすぐに眠りに落ちる。 背後からおぞましい怨念放つ者の存在に気づかずに… (お、お、お姉様が誰かと14日に約束を…キィィーーー!!) 怨念の根源、白井黒子は実は美琴が電話を掛け始めるほんの少し前に戻っていた。 彼女は美琴にも声はかけたのだが、何やらぶつぶつと呟きながら考え事をしていた美琴は全く気づいていなかった。 なので黒子は会話を一部始終を聞いていたのだ。 (まぁ照れていたお姉様を見れた事は良しとしましょう…ですが!お姉様があそこまでテンパる相手は恐らく、いや、あの類人猿しかいない!!…あんの類人猿めがぁぁぁぁあああ!!こうなったら明日にでも血祭りにあげててさしあげますわ!!) そんな上条への恨みを晴らそうと固く決意する黒子を背後に美琴はぐっすり眠っていた。 同日、上条宅 「何だったんだ?あいつ…」 上条は美琴との電話を終え、通信の途絶えた携帯を片手に疑問に思う。 何やら怒ったと思えば、次は黙る。 黙ったと思えば、14日予定を聞いてきた。 彼は美琴を色々とつくづく忙しい奴だなとも思う。 (にしても14日って…勿論『あの日』だよな?なんでまた俺…?) しかし、彼が一番疑問に思ったのはそれらではなく、女の子にとっては1年でかなり重要な日のバレンタインに自分を誘ってきた事である。 無論、それが嫌という訳ではない。 むしろ逆だった。 上条は美琴の事を好き、まではいかずとも気にはなっていた。 美琴は整った容姿とスタイルをもち、世界でもトップクラスのお嬢様学校の名門常盤台の学生、そして誰とでも分け隔てなく接することができて様々な人に慕われている。 そんな彼女を気にするなというのが難しいだろう。 さらに美琴は上条の記憶喪失についてカエル顔の医者を除けば、唯一知っている人間だ。 つまり上条は彼女に対して変に取り繕う事はしなくてもよい。 上条もそれらがわかっているからこそ気にはなっているのだが、彼の中でひっかかるところがあり、好きとまではまだいっていない。 それは彼女が名門のお嬢様学校とはいえまだ中学生であることと、そして何よりも自分の不幸体質にあった。 前者は世間体を気にせず、なおかつ自分がしっかり理性を保てば済む話だ。 だが後者はそうはいかない。 上条は自分が不幸なために人を好きになれば、他人にもそれが起きてしまうのではないかという事を恐れていた。 例がないので実際にあるのかはわからないし、他人に不幸が起きた事は今自分がもつ記憶の上ではない。 それでも上条は怖かった。 自分のせいで他人が不幸になること、幸せになれないこと、これらは彼にとっては一番許せないことである。 なので彼には人を気になることはあっても、好きになることには抵抗を感じていた。 そういうこともあり、一応恋愛には人並み程度に憧れてはいても、自分には縁のないものだと決めつけ、他人の心に気づかないというところに繋がっているのたが。 (……まぁいずれにしても、14日になればわかるか) 今いくら考えてもあくまでも推測でしかないからな、と上条は考えること一旦やめ、手に持っていた携帯をしまい、眠りについた。 2月13日土曜日AM6時、常盤台女子寮 御坂美琴のこの日の目覚めは早かった。 理由は言うまでもなく昨晩の出来事。 (私…ついにやったんだな…) 美琴は不意に携帯へ目を向けると思わず口元が綻んだ。 上条の予定を確保した今、もう彼女に迷いはない。 14日に上条にチョコを渡し、告白すると決心したからだ。 後は今日中にチョコを作ればそのための全て条件が揃う。 今日は忙しくなりそうだと意気込む美琴は起き上がり、顔を洗うために洗面所へ向かった。 途中、相部屋の白井黒子が「類人猿め…あの若造めが…」などとぶつぶつ言いながら何やら考え事をしている姿が彼女の視界の片隅に入ったが、今日つくるチョコの事と明日の事で頭がいっぱいなのでそんなことは勿論気にしなかった。 同日午前、とあるスーパー 意気揚々と材料調達に向かった美琴であったが、一つ問題があった。 (私、そういえばアイツの好み知らない…) 彼女今の今までただ漠然と『チョコをつくる』ことしか考えておらず、具体的にどんなチョコにするか、どの程度の甘さにするかなどを全く考えていなかったのだ。 さらに、それの指針となる上条の好みを彼女は知らない。 別に気持ちさえ伝わればいいか、とも思うがせっかくチョコを作ってあげるのだから喜んでもらいたい。 それらの思考が絡みあった結果、材料の調達もできず売り場の前で美琴は立ち尽くす事しかできなかった。 「あれ?御坂さんこんな所でどうしたんですか?」 美琴は突然声をかけられた方へ向く するとそこには頭に満開の花を乗せた初春飾利とその友達の佐天涙子が立っていた。 彼女達もまた明日がバレンタインということで、チョコを買いにここに足を運んだのである。 「え?あ、いや、ほら…その…」 突然声をかけられ、美琴は動揺する。 今のご時世、友チョコという言葉も存在するため、特に隠す必要もないのだが、やはり彼女にとっては何故だか恥ずかしさもありすぐに口を開くことはできなかった。 「もしかして、御坂さんもチョコですか?」 「ああ…うん、まあそんなとこかな」 なにやらはっきりしない美琴の発言に声をかけた初春は首を傾げる。 そこで隣にいる佐天が何かをひらめいたようにすると、急にニヤニヤとした顔で、 「あれぇ御坂さん、もしかして…明日手作りの『アレ』を好きな人に渡しちゃったりします?」 「ッ!!」 美琴はいきなり核心を突かれ、肩をビクンと大きくゆらし、一瞬で顔を真っ赤にそめる。 その反応を見た佐天はニヤニヤとした表情を崩さず、じっと美琴を見つめ、それは初春にも伝染していった。 (ビンゴ!?まさかのビンゴ!?) (この反応は…そ、そうなんですね御坂さん!) 普段は凛とした立ち振る舞い、はきはきとしてどこか男勝りな一面さえあるあの美琴が、恋する乙女のテンプレのような反応をみせた。 さらに彼女のこのような反応は二人は見たことがない。 したがって、まず間違いなく自分たちが言っていることは合っていると二人は確信する。 「ち、ちち違うわよ!大体、私には好きな人なんていないんだから!!」 「御坂さん、別に隠さなくてもいいんですよ?女の子なら誰でも通る道じゃないですか」 「ああもう!違うったら違うの!!」 美琴は2人に見つめられ慌てて取り繕うとしたが、波に乗った佐天はいくら否定されても止まらない。 なんだかんだ言っても彼女たちは年頃の中学生には変わりはない。 恋というものには当然ながら興味はあるし、それもあこがれの先輩の恋話となれば結果はどうなるかなど目に見えてくる。 「御坂さん好きな人ですか~。一体どんな人なんでしょうか…」 「ッ!!違うって言ってるのに…うぅ…」 そこに追い討ちをかけるような初春の一言。 否定しても2人は勝手に話を進めていき、美琴は涙目にしてバレる事を半ば諦め次第におとなしくなり、物を言わなくなった。 美琴としてもこれは初めての恋。 羞恥もさることながら、友達が相手であっても、どう話してよいものかはわからない。 「何か困ってる事でもあったら相談のりますよ?困っているように見えましたので」 そこに佐天が美琴に助け舟を渡す。 美琴は確かに困っていた。 しかし、彼女がそれを話すことは好きな人がいると話すということと同義で、この2人にはもう一生頭が上がらなくなると気がした。 それでも美琴は上条には喜んでもらいたい。 中途半端にやるよりは恥を忍んでで聞いてもらった方が、いい結果になるはず。 冷静に考えて1人で悩んでダメだったことから、今この差し伸べられた手を掴み相談にのってもらうことが最善と考えた。 「……誰にも言わないでね」 「え?あ、勿論ですよ!」 美琴念のために釘を刺しておく。 それに対し2人は初め本当にのってくるとは思っていなかったようで、一瞬驚きの表情を隠せなかったが、美琴の力になれるならとその後は胸をドンと叩き胸を張って答える。 (はぁ、後輩に頼ってて大丈夫なのかな私…) 普段は頼らない後輩に頼ってしまう自分に多少の不安と苛立ちを覚えるが、どれも彼が喜んでくれる事を考えれば少し楽になる。 そこでとりあえず彼女はどういう理由で悩んでいたのかを説明し、現状の打開策を考えることにした。 「-----という訳なのよ…私どうすればいいかな?」 「んー、ちょっと待ってくださいね…まだまさか御坂さんに本当に好きな人がいたことに対する驚きで頭が…」 こいつらは…と美琴は内心舌打ちする。 カマをかけてきたのはむこうなのだ。 無責任にもほどある。 「それじゃあ、その人はどんな感じの人なんですか?」 「へ?…言わなきゃ、ダメ?」 「それがわからないとアドバイスのしようがありません」 それもそうかと美琴は頷く。 どんな人かも分からないのでは話にならないのだが、やはり抵抗がある。 だが、そもそも1人で無理だったのだから相談にのってもらってるわけで、美琴には拒否権はない。 それがわかっていても恥ずかしいものは恥ずかしい。 悩みながらもようやく観念した美琴は顔を真っ赤に染めながら答える。 「えっと、そいつは年上で、バカで鈍感でムカつくけど、何かあった時は優しくて、私を救ってくれたり、守ってやるって約束してくれたりして…か、かっこよかったり…ゴニョゴニョ」 「おぉ!つまり、御坂さんのヒーローなんですね!?」 「ひ、ヒーロー!?そんな、あああアイツはそんな柄じゃ…」 ヒーローという言葉に過剰に反応する美琴に対し、なおもニヤニヤしながら美琴を見つめる2人。 だが、そのニヤニヤは先程までの好奇のものから羨望のものへと変貌していた。 (御坂さん、かわいいです!) (くー!いいないいな!私もそういう人欲しい!) 「あぁもう!そういうのはいいから、結局私はどうすればいいのよ!」 美琴はその空気に耐えられなくなり、周りの目も気にせず叫んだ。 美琴が顔を真っ赤にして若干涙目になっているを見て流石にこれ以上はと思った2人は追撃を止めることにする。 とはいえどんな人物かも全体を把握できずに、断片的な情報だけでは助言をしようにもたかがしれている。 彼女達も美琴同様大いに悩んだ。 「やっぱり…無理かな?」 美琴はその二人の様子を見て、申し訳なさそうに問いかける。 しかし、佐天と初春は美琴の力になりたかった。 普段そこまで自分のことを話さない美琴からこれだけの情報を受け取ったからということもある。 だがそれだけじゃなく、先輩で常盤台中学に通うお嬢様の美琴をなんとしても応援したかった。 しかも相手が美琴の初恋の相手だと言うなら尚更だ。 「んー、正直その人がどんなチョコをあげれば喜ぶかというのはわからないんですが、あたしが男なら手作り、それも御坂さんが頑張って作ったチョコを貰えればそれだけで十分嬉しいですけど」 「そうですよ。それに御坂さんの話を聞く限り、その人は人の気持ちを無下にするような人じゃないと思いますよ?」 「そう…かな?」 「少なくとも私はそう思いますよ。大事なのは気持ちですよ」 ねー♪と2人は向かい合って仲良く声を揃えてはしゃぐ。 (気持ち…そうよね、アイツなら私が気持ちを込めて作ったチョコを無下にはしないわよね) 依然としてはしゃいでる2人を横目に美琴は今まで心の中でもやもやとしていたものを断ち切る。 美琴は後輩にも頼ってしまったし、あまり知られたくないことも多々知られしまったが… (1人でダメだと思ったら他の人を頼ればいい…か、やっぱりこういうことも大事なんでしょうね) 以前妹達の件で鉄橋で言われた言葉を思い出しながら、その大切さを学んだ。 1人で悩むのは確かに辛い。 対して悩んでいる話題を他の誰かと共有することは楽だし、何よりも1人ではどうしようもない事も解決できる。 あの妹達の件がそうであったように。 美琴の性格上他人に頼りきるということはしないであろうが、それでも少しずつ他人を頼ることも覚えていこうと思えた。 「んじゃ初春さんと佐天さんはこの後どうするの?私は買い物するけど」 するべきことがみえたら早く行動に移したかった。 今心の中から溢れ出る強い気持ちが冷めない内に。 「私達もお手伝いします!と言いたいところですけど、こればっかりは御坂さんが頑張らないと意味ないですよね」 「あたし達のことは気にせず、チョコ作り頑張って下さい!明日、陰ながら応援してますよ!」 「そっか…それじゃ相談のってくれてありがと、またね」 「いえいえ、そんな礼言われる程のことしてませんって」 「お土産話期待してますよ!」 そういいながら、最後の最後で目の輝きを取り戻した2人と美琴は別れた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side
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前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある幼馴染の幻想殺し 第1章 ①虚空爆破事件 「あ、御坂さーん!!」 美琴が声のした方を見ると、白井を通して知り合った初春だった。 隣には友達だと思われるロングストレートの黒髪の少女がいる。 「おっす、そっちはお友達?」 「はいっ、これから一緒に洋服を見に…」 すると初春のことを黒髪の少女がズルズルと引きずっていった。 (ちょっと、あの人 常盤台の制服を着てんじゃない? 知り合いなの?) 一般の学校に通う生徒にとって学舎の園にあるお嬢様学校は憧れの的であり、 その中でも常盤台は学園都市でも能力開発において五本の指に入る超有名校だ。 恐らく少女は常盤台というだけで、少し気後れしてるのだろう。 それに追い討ちを掛けるように初春は友人の少女に言った。 「しかも あの方はただのお嬢様じゃないんですよ。 レベル5、それも学園都市最強の電撃使い… あの『超電磁砲』の御坂美琴さんなのです!!」 すると少女は興奮した様子で、美琴の手を掴んで自己紹介を始めた。 「あのっ、私 佐天涙子です!! 初春の親友をやってます!!」 「そ、そう、よろしくね」 佐天の興奮した様子に若干 引きながらも、美琴も佐天に自己紹介を返す。 「そういえば最近 姿をお見かけしませんでしたけど、何かあったんですか? 白井さんも御坂さんの元気がないって心配してましたよ。 …最近は白井さんのほうが明らかに元気がありませんけど」 「…ちょっと色々とあってね。 ありがとう、心配してくれて。 黒子に元気がないのも私が関係してるんだけど…」 美琴がそう言い掛けた時… 「おーい」 上条が二本の缶ジュースを持って、美琴のところに駆け寄ってきた。 「美琴はヤシの実サイダーで良かったんだよな?」 「うん、ありがとう」 そう言って上条から缶ジュースを受け取った美琴のことを 初春と佐天は先ほどまでとは少し異なった羨望の目で見つめている。 「どうしたの、二人とも?」 美琴はそんな二人の様子を少し訝しみながら尋ねる。 「もしかして、その人って御坂さんの彼氏ですか?」 突然の質問に美琴は戸惑いながらも、顔を赤く染めて頷く。 (何ですか、その乙女な反応は!? 何だか白井さんの気持ちが少し分かってしまったような…) 初春は美琴に釣られて一緒に頬を染めている。 そして一方の佐天はというと… 「キャー、彼氏がいるなんて やっぱり大人ですね!! ぜひ詳しい馴れ初めを教えてください!!」 変な方向にテンションが上がりまくっているのだった。 「へー、お二人は幼馴染なんですか? それで学園都市で再会したなんてロマンチックですね!!」 佐天に釣られたのか いつのまにか初春のテンションまで高くなって、 上条と美琴は佐天と初春の二人から質問責めにあっていた。 ちなみに上条と美琴も初春たちと同じセブンスミストが目的地だったため、 一緒に同行することになったのだった。 「でも白井さんの元気が無かったのって御坂さんに彼氏が出来たからなんですね。 これで少しは正常な道に戻ってくれるといいんですが…」 「ハハッ、それは言えてる」 すると佐天が上条に興味深そうに尋ねた。 「でもレベル5の御坂さんの彼氏だなんて、 上条さんも何か凄い能力を持ってるんですか?」 「能力はあるっていえばあるんだけど、身体検査じゃレベル0なんだよな」 「どういうことですか?」 「…俺の右手って異能なら何でも打ち消すことが出来るんだ」 「えっ、もしかして それって海賊ラジオの!?」 「海賊ラジオ?」 「様々な場所からネットを介してゲリラ的に生放送を行っているラジオのことです。 その中の内容の一つに、 全ての能力を無効にするブラックホールのような無能力者っていうのがあったんです」 「うーん、確証はないけど 確かに俺のことかもな」 「…いいですね、レベル0でも特別な力があるんだから」 「もしかして、佐天さんもレベル0なのか?」 「ええ 超能力に憧れて学園都市に来たのはいいものの、 初日の身体検査で"あなたには全く才能がありません"って言われて… 流石にその時はヘコみましたよ」 そう言う佐天の顔には劣等感に塗れた卑屈な笑みが浮かんでいた。 「俺は諸事情で学園都市に来たから佐天さんの気持ちが完全に分かるわけじゃないけど、 佐天さんは学園都市に来て後悔してるのか?」 「どうでしょう、正直よく分からないです」 「確かに、この学園都市じゃ能力の優劣で価値を判断されることが多い。 無能力者には生きづらい社会だっていうのも分かる。 でも、能力じゃなくても学園都市に来て得られたものだったあるはずだ」 「能力じゃないもの?」 「…例えば友達とかな」 上条の言葉に佐天は思わず初春の方を見る。 そこには心配そうに佐天のことを見つめている初春の姿があった。 「例え学園都市であっても能力だけで全てが決まるわけじゃない。 気にするなとは言わないけど、意外と本当に欲しいものって身近にあるもんだぞ」 「…そうですね。 すみません、劣等感を押し付けるような真似をしてしまって」 「いや、俺のほうこそ説教臭いこと言って悪かったな」 上条の言葉に佐天の笑顔は自然なものへと変わっていた。 そんな佐天の笑顔を見て上条も笑みを零す。 そして先を行く上条の背中を見ながら、佐天は美琴に囁くように言った。 「上条さんって素敵ですね」 「そ、そうかな?」 「いいなー、御坂さんには あんな格好いい彼氏がいて。 私も彼氏が欲しくなちゃった」 「…」 「大丈夫ですよ、そんな目で見なくたって。 別に御坂さんから上条さんを奪おうだなんて思ってませんから」 「本当?」 首を傾げながら尋ねる美琴に佐天は思わずキュンとしてしまう。 「あー、御坂さんってば可愛すぎ!! レベル5っていうと凄い人だとばかり思ってましたけど、普通の女の子なんですね。 あの 御坂さん、良ければですけど私と友達になってくれませんか?」 「えっ?」 美琴は思いがけぬ提案に思わず聞き返してしまう。 「…やっぱり一般人なんかじゃ駄目ですか?」 (やっぱりお兄ちゃんは自分を不幸になんてしない。 こうやって思いがけない幸せを運んできてくれるのだから…) 「ううん、喜んで!! これから よろしくね、佐天さん!!」 やがて目的地のセブンスミストに着くと、四人は婦人服フロアへと向かう。 しかし そんな四人を怪しい目つきで見つめる人影があることに 上条たちは気付いていないのだった。 「上条さーん、この下着なんてどうですか?」 そう言って佐天は上条に手に取った下着を見せる。 上条は思わず目を逸らした。 「ちょっ、佐天さん!! 当麻になんてもの見せてるのよ!!」 「えー 別に身に付けたものじゃないんだから、いいじゃないですか?」 「それでも駄目なもんは駄目なの!!」 上条は彼女である美琴の付き添いであるとはいえ、 不用意に婦人服フロアに来てしまったことを早くも後悔していた。 そして初春は美琴と佐天の争いを諌めるように言う。 「と、ところで御坂さんは何を探しに?」 「えっと、私はパジャマとか…」 「それなら寝巻きは、こっちの方に…」 下着のコーナーからようやく移動して上条は心の中で一息吐く。 「色々回ってるんだけど、あんまりいいのが置いてないのよね…」 そして寝巻きのコーナーを見て回っている内に、美琴はあるパジャマの前で足を止めた。 そのパジャマはピンクの生地に花柄模様の付いたものだった。 「ねえ、このパジャマかわ…」 「アハハ、見てよ初春 このパジャマ!! こんな子供っぽいの今時 着る人いないっしょ」 「そうですね。 小学生の時くらいまでは、こういうの着てましたけどねー」 「そ…そうよね、中学生になって これはないわよね」 「あ、私 水着を見ておこうと思うんですけど、上条さん選んでくれませんか?」 「…先行っててくれ、美琴のパジャマを選んだらすぐに行くから」 「はーい」 佐天と初春は返事をすると、水着コーナーに向かって走っていく。 「…取り合えず試着してみればいいじゃねえか?」 「当麻は笑わない?」 「今更 俺達の間で何言ってるんだ? そういう可愛らしいものが好きなのも含めて美琴だろ? …それに俺は美琴に似合ってると思うぞ」// 「あ、ありがとう」// 美琴は結局そのパジャマを購入することに決めた。 そして美琴はパジャマを購入すると、 上条と手を繋いで水着コーナーへと向かうのだった。 「…」 「ねえ、機嫌直してよ」 「…別に上条さんは彼女が他の男に目移りしただけで怒るほど、 小さな男じゃないですよ」 「だから あの人を見てたんじゃなくて、持ってた縫い包みを見てただけだって」 「分かってるよ、少しからかっただけだ」 「もう、そういう冗談はよしてよね!!」 「…半分は本気なんだけどな」 「え?」 「何でもねえよ」 上条と美琴は現在 ベンチに腰掛けている。 佐天と初春はトイレに向かっていた。 上条と美琴の口論の原因だが、美琴が通りすがった男にジッと視線を向けたのだ。 美琴は男が持っていた縫い包みを自分の好きなゲコ太だと勘違いしただけなのだが、 上条は美琴が男を見ていたと勘違いした。 それが原因でちょっとした口論になった、それだけのことである。 そして上条自身、自分の感情に少し戸惑っていた。 上条は自分がこんなに嫉妬深い男だとは思っていなかった。 美琴は何も悪くないのに責めるようなことをしてしまった。 そんな自分に上条は自己嫌悪に陥り中である。 しかし一方の美琴は逆に顔には出さないが、上条が嫉妬してくれたことに喜んでいた。 上条が自分のことを嫉妬するほど深く想ってくれている… 美琴はそのことが分かっただけで大満足だった。 すると佐天と初春がトイレから帰ってきた。 しかし その様子は先ほどまでと違い、ひどく慌てふためいたものだった。 「どうしたんだ?」 「衛星が重力子の爆発的加速を観測したんです!!」 「それって もしかして!?」 「はい、例の虚空爆破事件の前兆です!!」 ここ最近、学園都市で無差別に起こっている爆発事件。 アルミを基準にして重力子の数ではなく速度を急速に加速させることによって、 それを一気に周囲に撒き散らす…要はアルミを爆弾に変える能力。 しかし学園都市の『書庫』には事件の規模に見合う能力を持った人間が一人しかおらず、 その能力者も現在 謎の昏睡状態に陥っていて事件を起こすことが不可能だった。 そのために容疑者の特定が出来ずに警備員や風紀委員も後手に回っていた。 「御坂さん、上条さん。 すみませんが、避難誘導に協力してもらえませんか?」 「わかったわ」 「佐天さんも早く避難を…」 「う、うん、初春も気をつけてよ」 そして初春は急いで店員に緊急事態であることを伝え、上条と美琴は避難誘導に回った。 多少の混乱はあったものの、避難は速やかに行われ無事に全員退避したように思われた。 しかし… 「初春ー!!」 「佐天さん、どうしてここに!?」 「女の子が一人行方不明で、何処にも見当たらないって お母さんが…」 上条と美琴も含めて脱出しようとした矢先のことだった。 「お姉ちゃーん」 一人の少女が変な縫い包みを持って初春のところに駆け寄ってきた。 「あれ、あなたはこの間の?」 少女は初春が先日とある一件で知り合った少女だった。 行方不明だと思われる少女が見つかったことに安堵の息を吐く一行だったが、 少女の一言がその場の空気を不穏なものへと変える。 「メガネを掛けたお兄ちゃんが、お姉ちゃんに渡してって…」 この状況で誰かに縫い包みを渡すよう頼むことに違和感を覚える。 ブン… そして縫い包みが放った音が不信感を確信へと変えた。 「逃げてください、あれが爆弾です!!」 初春は少女を庇うようにして縫い包みから距離を取る。 そして縫い包みは音を立てて周りの空間を圧縮するように潰されていく。 虚空爆破事件による爆発の前兆だった。 (レールガンで爆弾ごと吹き飛ばす!!) 美琴は咄嗟にスカートのポケットに手を入れ、 レールガンに使うコインを取り出そうとするが… コインが美琴の手から滑り落ちた。 (マズった、間に合…) 次の瞬間、凄まじい轟音と爆風が辺りに響き渡った。 「凄い、素晴らしいぞ 僕の力!! 徐々に強い力を使いこなせるようになってきた!! もうすぐだ!! もう少し数をこなせば、アイツらも無能な風紀委員もまとめて…」 線の細いメガネを掛けた少年がそう高笑いをあげようとしたその時… 「吹き飛ば…ぐあっ!?」 いきなり肩を掴まれたと思ったら殴り飛ばされていた。 「な、一体何が!?」 「よう、爆弾魔」 少年を殴り飛ばしたのは他ならぬ上条だった。 「用件は言わなくても分かるよな?」 「な、何のことだか僕はサッパリ…」 「狙いは風紀委員だったんだってな。 でも風紀委員の初春さんも含めて、誰一人 怪我を負ってねえよ」 後から初春の携帯に入った連絡によると、 虚空爆破事件の現場には必ず風紀委員がいたらしかった。 そこから風紀委員が爆破事件のターゲットであると風紀委員の本部は判断したのだった。 「そんな馬鹿な、僕の最大出力だったんだぞ」 「へえ」 「い、いや、外から見ても凄い爆発だったからさ」 しかし少年はそう言った瞬間、能力を発動させたアルミのスプーンを上条に投げつけた。 「死ね!!」 しかし飛んできたスプーンを上条が右手で受け止めた瞬間、 能力の発動は収まってしまった。 「い、一体何が起こったんだ!?」 次の瞬間、上条は少年との距離を詰めると一気に少年を組み伏せる。 「暴れてもいいが、それなりの覚悟はしてもらうぞ」 「くそ、くそ!! そうやって僕を見下しやがって!! 殺してやる、お前みたいなのがいけないんだ!! 風紀委員だって、力がある奴は皆そうじゃないか!!」 「…何かお前に事情があるのは分かった。 でもな、だからってお前がやったことが正しいって本気で思ってるのか? さっきは、あんな小さな女の子まで巻き添えになるところだったんだぞ」 「それは風紀委員が守るに決まってるから」 「じゃあ何でそんな風紀委員を狙うような真似をしたんだよ?」 少年は上条の言葉に今までの風紀委員の行動を思い返す。 確かに間が悪いことばかりだった。 それでも風紀委員は最後には必ず少年の下に駆けつけてくれた。 何てことは無い、単に少年は風紀委員を逆恨みしてただけだった。 少年は自分がやってきたことが、 自分を傷つけていた人間と何ら変わりがないことに気が付いた。 「俺には、お前の苦しみは分かってやれねえ。 それでも本当に力が貸して欲しいなら力になることはできる」 「…いや、これは僕自身で片を付けなくちゃいけないから。 罪を償ったら、もう少し本当の意味で強くなれるよう頑張ってみるよ」 「…そうか」 そして上条は少年と並んで、駆けつけた風紀委員のところへ向かうのだった。 「…犯人逮捕のご協力、感謝しますわ」 「いいって、アイツは自分から自首したんだからさ」 「…一つ、お聞きしてよろしいですの?」 「何だ?」 「それは黒子に対する嫌がらせと挑戦と受け取っていいんですの!?」 そう叫んだ白井の前に立つ上条の横には美琴がベッタリと上条と腕を組んで佇んでいた。 その挙句に上条の肩に頬ずりをしてる始末である。 「だって、お兄ちゃんが皆を守ってくれたんだもん」 先ほどの爆破から皆を守ったのは上条だった。 間に合わなかった美琴の超電磁砲の代わりに爆風の前に飛び出し 皆を庇うように右手を使ったのだった。 「お兄ちゃんですの!? まさか二人でそんなアブノーマルなプレイを行っているんじゃ!?」 「何だ、アブノーマルなプレイって!? 俺と美琴は幼馴染で、偶にこうやって昔の呼び方に戻っちまうんだよ」 「くっ、幼馴染とは…思いがけぬアドバンテージをお持ちでしたのね。 しかし黒子はその程度で諦めませんわ!!」 そして三人の様子を遠巻きから見ていた初春と佐天は… 「あれが例の白井さん? 何ていうか…変わった人だね」 「良い人に間違いはないんですが、見ての通り性格が少々残念な人で…」 すると初春の背後で突然… 「初春、聞こえてますのよ。 誰が残念な人ですの?」 「て、テレポート!?」 「ひぃー」 「その花を一つ残らず毟ってやりますわ!!」 そして追いかけっこを始めた初春と白井を余所目に上条と美琴は… 「それじゃあ、帰るか?」 「うん」 二人で並んで帰ろうとしたのだが… 「ちょ、ちょっと、待ってください!!」 佐天が何処か驚いた様子で二人のことを呼び止めた。 「帰るかって、もしかして二人は一緒に暮らしてるんですか!?」 「誤解されると嫌だから言っておくけど、 一緒に暮らしてはいるが 疚しいことは何もしてないからな」 しかしそんな上条の言葉を佐天は全く聞いておらず、 ただ興奮した様子で美琴に詰め寄っている。 「凄ーい、御坂さん!! 彼氏と同棲なんて、やっぱり大人なんですね!!」 「あうぅ」 「いいな、彼氏と二人暮らし。 どんな部屋で暮らしてるんですか?」 「…それじゃあ今から部屋に来る?」 「えっ、いいんですか?」 「うん、友達なんだし…」 「分かりました、それじゃあ お邪魔させてもらいます!!」 そして上条と美琴は佐天たちと共に一緒に暮らす部屋へと戻るのだった。 前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある幼馴染の幻想殺し
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前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少女のマフラー計画 御坂の寝顔を見ながら、先程までの自分の行動を思い直す。 今思えば自分は相当テンパっていたみたいだ。 一昨日の御坂へのキス未遂後、御坂に連絡が取れなかった。 嫌われてしまったんではないか?そう思うと心穏やかではいられなかった。 後は延々と悪い方へ思考が進み、終いには御坂と会いたくない、などと言う逃げに走ってしまった。 「まったく、俺らしくないよな。」 「ほんとそう思うわ。」 いつの間にか起きたようで、御坂は上条の隣に座っていた。 だがその表情はこわばって、声も震えている。 「アンタってあの手の問題は馬鹿正直に真正面からぶつかってくる人間だと思ってたけど?」 「馬鹿正直ってなあ…、まあ確かにさっきまでの俺はどうかしてたよ。お前と連絡取れなくって、嫌われたかなって焦っちまったんだな。」 「…アンタって意外と肝っ玉小さかったのね。連絡取れなかったのは、ちょっと風邪引いて寝込んでただけよ。」 「そうだったのか…。風邪はもういいのか?」 「もう大丈夫、って話が逸れたけど。…アンタの話聞く限りだと、もう会わないって言うのは、撤回されたと思っていいのよね?」 「ああ、撤回させてくれ。本当におれはどうかしてたよ。ごめんな。」 御坂はその言葉を聞いて安心したのか、大きなため息と共にこわばっていた表情を緩めた。 それと同時に何かを思い出したようにハッ!として顔を赤くする。 「そ、そう言えばアンタ!何よさっきのは!」 「ん?さっきのって?」 「だから、その、私が泣き出したときに…。」 「え、あー。あは、あはははは。あれはですね、体が勝手に動いたというか…。」 「泣いてる女の子を手篭めにしようと、体が勝手に動いたわけね。へー、ふーん。」 「ち、違う!ああするしかお前を落ち着かせられないと・・・!そもそもお前だって抱きついてきたじゃねーか!」 「な!あ、あれは頭の中ぐちゃぐちゃで分けわかんなくって嫌々!そう、嫌々抱きついたのよ! (ああもう何でいつも素直になれないのよ私は!)」 そう、御坂の反応はいつも通りだった。 しかし上条の反応が違った。 御坂が嫌々と言ったのに反応して落ち込んだように顔を暗くした。 「…そうだよな、嫌だよな。好きでもない男に抱きs」 好きでもない男に抱きしめられたくないよな、そう言いかけた上条の体が御坂の視界から消えた。 正確には今の話を聞いていた白井に吹っ飛ばされた。 「お、お、お姉様になにしとんじゃこの若造がァァァァァァァあああああああああああああああああ!!!!」 「え、く、黒子!?」 「昨日お姉様の様子がおかしいからと探してみれば!お姉様、もう大丈夫ですの! お姉様を汚したあの類人猿に黒子が裁きをぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!」 「…ってぇー。し、白井!?違う、これは違うんだ!違わないけど違うんだ!だから落ち着いて話を!」 「死ねぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええ!!!!!!」 「不幸だあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」 そう叫んで追いかけっこをする二人はあっという間に御坂の視界から消えていった。 「ちょ、ちょっと!私を置いてくなーーー!!!」 そう叫んだが後の祭りである。 もっとも、叫んだぐらいで止まるわけも無いだろうが。 諦めた御坂は二人が去っていった方向を見ながら、先程上条が見せた表情を思い出す。 自分の言葉を聞いて落ち込んだ、暗い顔。 「なによあんな顔しちゃって……。なんでアンタが悲しそうな顔するのよ…ばか。」 「うう、酷い目にあった…。」 あれからなんとか白井の追跡を振り切り、寮の自室まで帰ってきた。 制服に所々穴が開いているが、奇跡的にケガはしないで済んだようである。 「夕飯遅くなってインデックスの奴怒ってるだろうな…。っていうか元々機嫌直ってないし…。」 一昨日から静かな怒りを纏うインデックスに言い知れぬ恐怖を感じている。 これならまだ噛み付かれた方がマシだ。 このままだと精神が噛み砕かれてしまうかもしれない。 だからと言ってばっくれたら余計に後が怖いので覚悟を決める。 「ただいまー、すまんインデックス今から夕飯作るぞ!」 「あ、とうまおかえりなさい。でももう遅いんだよ!」 「お帰りー、遅かったわね。」 「……なんでお前がここに居るんだよ。」 「とうま、その発言はみことに失礼かも!みことはわざわざ御飯作ってくれたんだよ!」 「アンタ黒子に追いかけられてしばらく帰って来ないと思ったから、わざわざ御飯作りにきてあげたのよ。感謝しなさい。」 「とうまとうま!みことのご飯すっごいおいしいんだよ!特別にとうまの分もあるから早く食べるんだよ!」 「あ、うん。さんきゅー。じゃなくて!なんかお前ら急に仲良くなってない!?」 「あの後ここに来たらインデックスがお腹減った~って倒れててね。それでご飯作ってあげたら懐かれちゃった♪」 「私はみことの事誤解してたんだよ!こんなにおいしいご飯作ってくれるなんて!」 餌付けされたのかよ!と心の中で突っ込む。 それに自分よりもインデックスと仲良く見える事になんだか釈然としない。 「まあ二人が仲良くなってなによりだ。上条さんの心の重荷が一つ減りましたよっと。それじゃお嬢様の料理とやらをいただきましょうかね。」 「ふふん、食べて吠え面かくんじゃないわよ。」 「「ごちそうさまでした。」」 「ねぇ、私の料理、どうだった?」 「想像以上に美味かったよ。正直御坂がこんなに料理上手とは思わなかった。これなら毎日作りにきて欲しいぐらいだ。」 一緒にたべる人が増えるのも良いもんだしな、と付け加える。 たしかに御坂の料理はうまかった。 だがそれ以上に目の前の少女と食卓を囲めるのがなんだか嬉しかった。 「ほ、ほんと!?じゃ、じゃあまた作りに来てあげよっか…?」 「みことの料理ならいつでも大歓迎なんだよ!ね、とうま?」 「けどこれ以上迷惑掛ける訳にもいかないしなー。」 「べ、別に私が好きでやってるからいいの!せっかくインデックスとも仲良くなれたんだから。」 「んーでも悪いし…。」 「じゃあアンタ、私になにか恩返ししなさいよ。っていうかアンタまだこの前の約束だって全然果たして無いじゃない。」 「わりぃそうだったな。分かった何か考えとくよ。」 「素直でよろしい。」 「よかった、またみことの料理が食べられるんだね!」 「ふふ、期待してなさい。それじゃ今日はもう遅いし帰るわね。」 「とうま、ちゃんと美琴を送ってくんだよ。みことに変なことしたら承知しないんだからね!」 「お前御坂への態度変わりすぎだろ…。んじゃ寮の近くまでお送りしますよ姫。」 「はいはいお願いしますね。じゃあねインデックス。」 「ばいばいみこと。」 すっかり暗くなった道を二人で歩く。 静かな道を二人で並んで歩くのも悪くない。 そういえば周りからは俺達はどう見えるのだろう。 恋人、は無い。片やさえない高校生で、片や常盤台のお嬢様。どうみても釣り合わない。 そう思うとなんだか凹んでくる。 (って!なんで俺は落ち込んでるんだよ!しかも自分の妄想で!) 「アンタなに百面相してるのよ…。気持ち悪いわね。」 「き、気持ち悪いって、それはあんまりだろ…。」 「ぷっ、何本気で落ち込んでるのよ。ジョーダンよ。何か考え事?」 「え、えーと…。」 自分達がどう見えるか考えてた、なんて言えるはずも無い。 必死で頭を働かせると、先程の御坂とインデックスの事を思い浮かべた。 「あーそうそう、インデックスとお前の事だよ。なんかあっただろ?明らかに不自然だったぞ。」 「あー、やっぱりわかる?」 「いくらインデックスでも飯だけでああはならんだろ。んで、何があったんだよ?」 「(そういう事には敏感なのよね…。)んー実はね。あの事全部喋っちゃった…。」 「あの事って、ま、まさか!あれ全部しゃべったのか!?」 「し、仕方なかったのよ!なんかあの子の様子がいつもと違って、話さざろう得なかったって言うか…。」 その言葉に上条は頭を抱える。 おそらく帰ったらその事でインデックスから追求されるだろう。 「その事を話したら、意外にもあの子怒らなくってね。正直な人は好きなんだよ、なーんて言われてね。私も毒気抜かれちゃった。」 その時一瞬悲しそうな顔をしたのよね、と心の中で付け加える。 「いいよなーお前らは仲良くなれたから…。そのしわ寄せは全部俺にくるんだからな!お父さんお母さん、先立つ不幸をお許し下さい。」 「自業自得よ。自分の行動を反省して諦めなさい。骨は拾ってやるわよ。」 「不幸だ…。あの時の俺の馬鹿野郎…。」 不幸だ、と口では言っているが内心それほどでも無かった。 一時は御坂と友達でいられなくなると悩んだのに、今ではこうやって軽口をたたきあえる。 それだけで不幸じゃなくなるな、と思った。 「(よくビリビリしてくるけど、根はいい奴だからな。)でも、お前と友達でよかったよ。」 「な、何よ急に!そんなのああ当たり前じゃない!私と友達なんだからもっと感謝すべきよ!」 そういって顔を逸らす御坂を見て苦笑する。 「( いつまでもこうしてられたらいいのにな…。)…っと、もう寮の近くか。」 「あ、うん。それじゃあ後は黒子に迎えに来てもらうから。ありがとね。」 「ああ、分かった。…、なあ御坂。」 「なに?どうかしたの?」 「えー、あー、いや、なんというか。」 「何よ、はっきりしないわね。」 呼び止めたものの、特にコレといって何か有るわけでもない。 なんで呼び止めてしまったのか、上条自身よくわからなかった。 「(えーと、なにか話題を…。)そ、そうだ。恩返しの事だよ!」 「ああ、その事?焦んなくていいわよ。アンタの甲斐性にはあんまり期待してないし。」 「それはさすがに上条さんも傷つくんですが…。それで、次の日曜日空いてるか…?」 「へ?なんで?」 「その日一日付き合って、お前に少しでも恩返ししようかなーと。うん。」 これは恩返しだから、他意はないから。 そう自分に言い訳をする。 「俺にできる事なんてそれぐらいだしな。こういうのじゃ、ダメか?」 不安そうな表情で御坂を見る。 (これってもしかしなくてもデートの誘いよね!こいつからなんて信じられないけど、夢じゃないわよね!?) 「だ、ダメだじゃない!けどこれってもしかして、・・・デ、デ、デ、デートの、お誘い…?」 おそらくデートだろうとは思うが、なんといっても相手は上条だ。油断はできない。 流行る気持ちを抑え恐る恐る聞いてみる。 「一応、そういうことになるか、な?じゃ、じゃあ、またあとで連絡するから、またな!」 上条は落ち着かない様子でそそくさと立ち去ろうとする。 「ま、まって!」 「どうした?…やっぱ、だめか?」 「ううん、そうじゃなくて……日曜日、楽しみにしてるから………。」 消え入りそうな声だったがなんとか上条の耳に届いた。 楽しみにしている。 その言葉に自然と笑顔になる。 「お、おう!任せとけ!日曜日は楽しませてやるからな。それじゃまたな。」 「あ、うん、またね…。」 そのまま上条は足早に去っていった後、御坂はしばらくその場に立ち尽くしていた。 上条からのまさかのお誘い。 現実感が無くて体がふわふわしているように感じる。 (これって、夢じゃないわよね。私も素直になれてたと思うし。なんか話が上手すぎて怖いなぁ…。でも、アイツとデートかぁ…。えへへ。) その後ぼーっとした頭で日曜日のことを考え続けていた。 しばらくして我に帰り白井に迎えを頼んだが、にやけたままの顔だったため、白井から執拗な追求を受けるのであった。 御坂と別れた後うかれていた上条であったが、自室の前まで戻ってきたところで、自分の危機を思い出す。 御坂とのここ数日のことがインデックスにすべてバレてしまった。 どうやってご機嫌を取るべきか。 食べ物は無理。自分より料理の上手い御坂に餌付けされている。 他に方法はないか? 「うん、ないな。さようなら俺の人生、不幸だけどそれなりに楽しかったぜ。」 そうすべてを悟った顔で扉を開ける。 「ただいまー。」 「…おかえりとうま。ちょっと話があるからそこに座って。」 すわ来たぞ。 だが悟りを開いた上条に恐怖はなかった。 諦めたとも言う。 「うむ。さあ何でも聞きたまへ。今の上条さんは何でも答えますよ。」 「?へんなとうま。でも丁度よかった。これは大事な話だから、良く考えて、真剣に答えて欲しいんだよ。」 いつになく真剣な眼差しのインデックス。 その様子に上条は気圧されそうになる。 「単刀直入に聞くよ。とうまは、みことの事が好きなの?」 「………………………はい?」 (おかしいな、聞き間違えか?俺は悟りを開いたはずなのに、インデックの言葉が理解できないぞ?) 「えーと、インデックスさん?よく意味が分からないのですが?」 「とうま、私は真剣に答えてって言ったよね?」 「いや、だって。何言ってるんだよ、俺が、え?御坂を好きって?はは、そんなわけ…。」 それ以上言葉を続けられなかった。 御坂美琴は大切な友達だ。 傷つけたくない、守るべき存在。 だがそれだけだろうか? わからない。自分の心が分からない。 「俺、は…。」 「……さっきね、とうまとみことが一緒にごはん食べてたとき、とうまはすごい嬉しそうだったよ。」 「それは、御坂の料理が美味かったから…。」 「本当にそれだけ?」 「……よく、わかんねー。」 「…もう一度聞くね、とうまはみことといると嬉しい?」 その問を受けて考える。 たしかにあの時、食事を抜きにしても、彼女と居られることは嬉しいかった気がする。 「ああ。そうかもしれない。」 「とうまは、みことともっと仲良くなりたい?」 「…たぶん、そうかもな。実はさっきインデックスと御坂が仲良くしてるの見て、少し羨ましかった。」 「とうまは、みことの事が好き?」 「ああ…。」 ああ、そうか。 彼女を傷つけたくなかったのも。 泣いている時抱きしめたのも。 一緒にいて嬉しかったのも。 恋人に見えそうも無くてがっかりしたのも。 「そっか、俺、御坂が好きだったんだな………。」 インデックスはその言葉に一瞬だけ顔を曇らせる。 だがすぐに優しい表情を浮かべる。 その表情の変化に上条は気づくことができなかった。 「ふふ、とうまはやっぱり馬鹿なんだね。やっと自分の気持が分かるなんて。とうまはやっぱりとうまなんだよ。」 よしよしと上条の頭を撫でる。 「ああほんと馬鹿で情けねーよな、インデックスに気付かされるなんて。」 自分のことも気付けないなんてな、と呆れたように苦笑する。 「とうまの事は誰よりもよく見てるんだよ。最近みことの話しばっかりしてたしね。」 「そ、そうだったか?でも、インデックスが居なかったら、俺はずっと自分の気持に気付けなかったかもな。インデックス…ありがとう。」 「お礼はいらないんだよ。とうまにはいっぱい助けてもらったからね。だからちょっと恩返ししただけなんだよ。」 「そっか。はは、自分のこと不幸不幸って思ったけど、ぜんぜんそんな事無かったな。こんないい友達を持って、俺は幸せだよ。」 「これぐらいの幸せで満足しちゃだめなんだよ。明日からがんばって、みことを振り向かせるんだよ!」 「それが難しことなんだけどな…。まあなるようにしかならないし、当たって砕けてみるか。」 「みこともとうまの事は嫌いじゃないと思うんだよ。だからとうま、がんばってね。それじゃもう私は寝るんだよ。おやすみとうま。」 そういってインデックスはベッドに潜り込む。 「おやすみ。俺は風呂でも入ってくるかなー。」 上条が風呂に入ったことを確認してから、インデックスはひとり呟く。 「とうま、みことと、幸せになってね。恋人になれたら私は邪魔になっちゃうけど、それまではここに居させてね。」 言い終わると我慢していた涙を流す。 彼が出てくるまでに涙を流し尽くそう。 絶対に自分が泣いているのを悟られてはならない。 誰よりも大好きな彼のために。 声を出さず一人泣いた。 前ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少女のマフラー計画
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/クリスマス狂想曲 12月23日 ――――――――― 佐天「ひゅふっ!?」/// 美琴「なっ!?な!?何を言っちゃってるのアンタ!!」カァッ 上条「また呼び方戻ってるぞ。美琴」 美琴「う、あ、と、当麻」/// 佐天「ど、ど、ど、どうしよう初春。ラブラブカップルが目の前にいる!!」 予想外の展開に慌てている少女を見て、頭に花飾りをつけた少女はすばやくその腕を掴む。 初春「じゃ、じゃあ御坂さん!私たちこれで失礼しますっ!お邪魔しました!!」 美琴「え?あ、うん」 佐天「え?初春?なに言って…てか危ないから引っ張らないで!!ねえ、うーいーはーるー…」ジタバタ 美琴「行っちゃった」(ちゃんと紹介したかったんだけどな) 上条「いやーテンション高かったなー」 美琴「あはは。佐天さん、スイッチ入っちゃうと止まらないから」 上条「まあでも、あの子のおかげで、また名前で呼んでもらえたからよしとするか」 美琴「あ、そういえば…さ」/// 上条「ん?」 美琴「さっき『相思相愛』って…」/// 上条「ま、まーな。ま、間違ってないだろ?」/// 美琴「…うん」/// なんとも形容し難い空気が二人を包み込む。それはそれで心地いいのだが、先に雰囲気に負けたのは少年の方だった。 上条「…あー、指輪ってあっちの方か?」 美琴「うん。いこっか」 上条「ああ」 ――ショーケースを覗きながらコイツ―当麻―と手を繋いで歩く。たったそれだけのことなのに、凄く楽しくて、嬉しい。 昨日までのわたしだったら、手を繋いだまま佐天さんや初春さんに声をかけようなんて夢にも思わなかっただろう。 でも、今はコイツと一緒にいるのを隠そうとは思わない。 上条「んー。結構ゴツイのが多いな」 美琴「基本的にファッションリングだからね」 上条「俺は普段着けていても邪魔にならないようなシンプルなのがいいと思っているんですけど」 美琴「え?ずっと着けているつもりなの?」 上条「ペアリングってそういうものじゃないの?」 美琴「ゴメン、常盤台ってそういうの厳しいから、普段着けるのは難しいと思う」 上条「…なあ、その、正当な理由があれば着けることは可能か?」 美琴「指輪を着ける正当な理由なんて…」 どくん。と胸が高鳴った。 上条「…婚約指輪とか」/// 美琴「ア、アンタ、なに言ってるの!?」カァッ 上条「さっき言っただろ?独占欲強いって」 美琴「…まあ、正式なものならいいかもしれないけど、中学生でそんなものしてる子いないわよ」/// 上条「そうか。…じゃあ、ペアネックレスとかにする?ネックレスなら隠れるだろ?」 美琴「…やだ」 上条「へ?」 美琴「ペアなら指輪がいい」 上条「でも、いつも着けてられないんだろ?」 美琴「…当麻とお揃いなら指輪がいい」 言いながら、わたしも彼に負けず劣らず独占欲が強いことを自覚した。 同時に携帯を取り出して、ある番号に電話をかける。 美琴「わたしも独占欲強いからね。…覚悟して」 上条「へ?」 コール音が途切れ、相手が電話に出る。わたしは大きく息を吸って話し始めた。 美琴「あ、ママ。ちょっといい?」 上条(なぜ美鈴さん!?) 美鈴『いきなりなーに?美琴ちゃん。ママ、昨日飲みすぎちゃって眠いんだけど』フアー 美琴「典型的な馬鹿大学生ね。…まあいいわ。あのさ、大覇星祭のときに会った人、覚えてる?」 美鈴『美琴ちゃんがいじめる。っていうか、大覇星祭のときに会った人って白い修道服の女の子かなー?』 美琴「違う、男の方」 美鈴『あー、詩菜さんの旦那様』 美琴「わざとか?わざとね!わざとなのねこのヤロー!!」 美鈴『うふふ。美琴ちゃんってからかいがいがあるから。で、上条当麻君がどうしたの?』 少女は少年に視線を向ける。 ――さあ、覚悟しなさい。 美琴「彼に、プロポーズされた」 上条「んなっ!?」/// 美鈴『え?美琴ちゃん?今なんて?』 美琴「だーかーらー、プロポーズされたの。それで、ママの了解を貰おうと思って」 美鈴『りょ、了解って?どういうことなの?』 美琴「婚約したい。――当麻と」/// 美鈴『うっわー。ママの予想をはるかに超えていたわー。やるわね、美琴ちゃん。ママ、すっかり目が覚めちゃった♪』 美琴「茶化さないで!真剣なんだから」 美鈴『…上条君はそこにいるの?』 美琴「うん」 美鈴『代わりなさい』 美琴「…代わってって」ケイタイ サシダス 上条「わかった。…代わりました上条です」 美鈴『いやーん!!上条君!美琴ちゃんになにしたの?ナニしちゃったの?奪っちゃったの!?』 上条「まだ何もしてねええええ!!いきなりなんなんですか!そのノリは!?」 美琴「!」ビクッ 美鈴『やだなあ、婚約したいなんて美琴ちゃんが言ってるから、全部済ませちゃったのかなーって。で、で、…避妊はちゃんとしたの?』 上条「まだ何もしてませんってば!!」 美鈴『それなのに婚約って、気が早すぎない?もし相性悪かったらどうするのよ』 上条「あ、いや、その。なんて言いましょうか、その、そういうのって美琴さんとしか考えられないので、約束手形が欲しいといいますかなんといいましょうか…」 美琴(わたしとしか考えられないってなに言ってるのよ)/// 美鈴『うーん。弱いわね。一時の気の迷いじゃないの』 上条「それはないです。俺は、…美琴を俺のすべてをかけて守りたい。…決して一時の気の迷いなんかではないです」 美琴「…」/// 美鈴『美琴ちゃんを、愛してる?』 上条「…はい」/// 美鈴『じゃあ、美琴ちゃんにわかるように言葉にして』 上条「…上条当麻は、御坂美琴を、愛しています」/// 美琴「ふぇっ!!」(あ、あ、あ、あい、あい、あい、あい…)/// 美鈴『…また清清しいまでに言い切ったわね。上条君。美鈴さんの負けだわ。…美琴ちゃんをよろしく。代わってくれる?』 上条「…」ケイタイ サシダス 美琴「あい、あい、あい…」ニヘラー 上条「美琴!電話」/// 美琴「ひゃいっ!?も、もしもし」/// 美鈴『美琴ちゃんはどうなの?上条君を、愛してる?』 美琴「…うん」/// 美鈴『じゃあ、上条君にわかるように言ってみなさい』 美琴「御坂美琴は、上条当麻を、世界中の誰よりも、一番愛してる!!」/// 上条「!!」/// 美鈴『見事に言い切ったわねー。美琴ちゃん。いいわ。認めてあげる』 美琴「ありがとう、ママ」 美鈴『いきなり婚約なんて言って、いかにもどこかの店内から電話してくるってことは、指輪でも買ってもらうのかしら?若いっていいわねー』 美琴「へ?なんでわかったの?」 美鈴『落ち着いた音楽と喧騒が聞こえてくるし、学校で指輪をつけていても咎められない理由が欲しいんでしょ?』 美琴「う、うん」/// 美鈴『じゃ、学校には連絡しておくわ。美鈴さん公認の許婚ができたってね』 美琴「…」/// 美鈴『とりあえず、結婚できる歳まではエッチしちゃ駄目よー』 美琴「なっ!なに言ってるのよ!!」/// 美鈴『まあ、若いふたりは耐えるのは難しいかもしれないわね。じゃあ避妊だけはしっかりすること!ゴムよりも学園都市製経口避妊薬の方が確実よ』 美琴「アンタ中学生の娘になに吹き込んどるんじゃあああ!!」/// 美鈴『あはは。じゃあ、近いうちにみんなで会いましょうねー。バイバーイ』 通話を終えて携帯電話をポケットに入れる。それから辺りを見回して胸を撫で下ろした。 美琴「ママが電話で『人の喧騒が聞こえる』とか言うから焦っちゃったわ。悪目立ちしてなかったみたいね」 上条「あんまり人いなくて助かったな」 少女はもう一度辺りを見回してから、頭を少年の肩に預ける。 上条「み、美琴?」/// 美琴「嬉しかった。ちゃんとママに言ってくれて」 上条「俺も、嬉しかった」 美琴「…」ギュッ 上条「…」ギュッ 美琴(なんか、幸せ…) 上条「…なあ、あれなんて、どうだ?」 そう言って少年はシンプルなメタルリングを指差した。光の加減でうっすらと青みがかって見えるプレーンリング。 上条「あ、すみません。そこのペアリング、見せてもらってもいいですか?」 店員を呼び、ショーケース内の指輪を出してもらい、それぞれ左手の薬指に嵌めてみる。 上条「あ…」 美琴「うそ…」 その指輪は、まるであつらえたかのように、お互いの指にぴったりと納まった。 上条「ヤバイ、なんか運命的なものを感じる」 美琴「うん、凄い馴染んでる感じ」 上条「じゃあ、これください。あ、このまま着けてってもいいですか?」 店員「ええ、構いませんよ。タグの紐を切らせていただきますね」ニコッ 上条「ありがとうございます」 店員「いえいえ。彼女さんも…はい、これでいいですよ」ニコッ 美琴「あ、ありがとうございます」 店員「いえいえ。はい、じゃあ確かに頂きます。ありがとうございました」 手を繋いで店を出る。少女は自分の左手を広げて指輪を眺めながら微笑を浮かべていた。 美琴「許婚、か」ニヘラー 上条「俺も親に電話しないといけないなあ」 美琴「…今、かけちゃう?」 上条「…そうだな。じゃ、階段のところまで行こうか」 美琴「うん」 ――引っ張ってくれる手に、さっきまでは無かった硬いものの感触があって、それが心地良かった。 階段のベンチに並んで腰を下ろすと、彼が携帯電話の通話ボタンを押した。 上条「もしもし」 詩菜『あら、当麻さん。珍しいわね?どうしたの?』 上条「いや、えーっと、なんといいましょうか…。母上様、驚かずに聞いていただきたいのですけれども」 詩菜『当麻さん…まさか女の子を孕ませてしまったとかじゃないでしょうね?』 上条「…アンタ自分の息子をどんな目で見てるんだコラ!」 詩菜『だって当麻さん、刀夜さんと同じでいつの間にか女の子と一緒にいることが多いんじゃないのかしら?うふふ』 上条「最後の笑い怖いよ!それにそんなことないですから!」 詩菜『自覚しないと、そのうち酷い目に会うわよ』 上条「だーかーらー、何でそういう話になってるんですか!?じゃなくって、俺は真面目な話があるんだ」 詩菜『なにかしら?』 上条「大覇星祭で会った人、覚えてる?」 詩菜『美鈴さん?』 上条「の娘さん。御坂美琴」 詩菜『ええ、覚えていますよ。彼女が何か?』 上条「事後承諾で悪いけど、…御坂美琴と婚約しました。美鈴さんには了解貰ってます」/// 詩菜『え?当麻さん、もう一回言ってもらえるかしら?』 上条「御坂美鈴さんの了解を頂いて、御坂美琴と婚約しました」/// 詩菜『…当麻さん。中学生を手篭めにしたの?』 上条「してねえよ!まだ指一本触れてねえよ!」/// 美琴「ふぇ!?」/// 詩菜『え?それで婚約って気が早くない?』 上条「なんで女親って揃いも揃って同じこと言うんだ。上条当麻は御坂美琴を愛してる!それが理由だ文句があるか!」 美琴(ま、また言ってくれた!)/// 詩菜『あらあら、若いっていいわねー。ところで、美琴さんは傍にいるの?』 上条「ああ」 詩菜『代わって』 上条「…代わってくれって」ケイタイ サシダス 美琴「か、代わりました。御坂美琴です」/// 詩菜『当麻さんとしちゃったの?』 美琴「ぶふぉっ!?いきなりなに言ってるのアンタ!!」/// 詩菜『お母さま公認で当麻さんと婚約っていうから、てっきりそういうことかなと思ったのだけど』 美琴「そういうことしなくっても、お互い愛してるんだから約束してもいいじゃないですか!」/// 上条「!!」/// 詩菜『ねえ、美琴さん。当麻さんはね、疫病神、不幸の使者と呼ばれていた子ですよ?…本当にそんな子と一緒にいたいのかしら?』 美琴「そんなの!!そんなの関係ない!!アイツは、当麻はわたしにとって、かけがえの無い人だもの!!いくら親でもそんな風に当麻のこと言うのは許せない!」 上条(美琴…)/// 詩菜『…ありがとう』 美琴「え?」 詩菜『当麻さんのために怒ってくれて。あの子のことお願いします』 美琴「あ、いえ、こちらこそお願いします」ペコリ 詩菜『あ、美琴さん。避妊だけはしっかりしなさいね。スキンよりも経口避妊薬の方が確実よ』 美琴「お、女親ってそれしか言えないのかあああ!!」/// 詩菜『うふふ。美琴さんだって、まだ母親にはなりたくないでしょう?』 美琴「そ、それはそうですけど…でも、当麻との…なら…」ゴニョゴニョ 詩菜『まあまあ。当麻さんも幸せ者ね。こんなに可愛い彼女が傍にいてくれて』 美琴「…」/// 詩菜『当麻さんと代わってくれる?』 美琴「あ、はい…」ケイタイ サシダス 上条「…変なこと吹き込まなかっただろうな?」 詩菜『当麻さんの悪口言ったら、怒ってくれたわよ。それだけで当麻さんの嫁として合格です』 上条「なっ!?」/// 詩菜『当麻さん。一度守ると決めたのなら、最後まで貫きなさい』 上条「…ああ。約束する」 詩菜『じゃあ、近いうちに美琴さんを連れて家にいらっしゃい。刀夜さんと一緒に嫁いじりして楽しむから』 上条「そんな危険なところには連れて行かない!」 詩菜『あらあら。可愛い嫁を連れてこないなんて親不孝者ね。当麻さん』 上条「だー!もー!!以上!連絡終わり!」 通話を終えて、少女を見る。少女が小さく微笑んでくれるだけで、少年にも自然と笑みがこぼれた。 美琴「どうしたの?」 上条「散々からかわれた。…けど認めてくれた」 美琴「そ、そっか」/// 上条「ああ。美琴は上条家の嫁ってお墨付きをいただきました」 美琴「よっ、よ、よ、よ、よ、よ、よめっ!?」カァッ 上条「ま、まあアレ、ほら、許婚だからな!」/// 美琴「そ、そ、そ、そうよね!!許婚だもんね!」/// 上条「ははははは」/// 美琴「うふふふふ」/// ――― 手を繋いでバス停へと向かう途中、少年の携帯電話が鳴った。右手で携帯電話を取り出して画面を見る。 上条「小萌先生か。なんだろ?ちょっとゴメン」 美琴「うん」 上条「もしもし…」 小萌『上条ちゃんはお馬鹿さんですから、シスターちゃんは今日、先生の家にお泊りなのですよー』 上条「インデックスを預かってくださるのは助かりますが、なんなんでしょうか?その棘のある一言目は!?」 小萌『明日のクリスマスパーティーは女の子限定ですから、上条ちゃんは来ちゃ駄目なのですよー』 上条「スルー!?そして上条さんにご馳走を食べる権利が無くなった!?」 小萌『上条ちゃん?大事な人がいるのに、クリスマスに先生に世話になろうなんて思っちゃいけないのですよー?』 上条「大事な人?え?え?」 小萌『御坂美琴さん、でしたか?上条ちゃんも隅に置けませんねー』 上条「う、え…」(な、なんで知ってるんだ!?) 小萌『今もデート中なのでしょう?』 上条「ま、まあ…」/// 小萌『ふふふ。壁に耳あり障子に目ありですよ。上条ちゃんと常盤台の子がデートしているって聞いたものですから』 上条「まいったな…」 小萌『ひとつだけ聞かせてください。上条ちゃんは、御坂さんを選んだのですね?』 上条「…いまいちなにを聞かれているのかがわからないのですが?」 小萌『上条ちゃんの周りにいる女の子の中で、一番大事な人は御坂さんということでいいのですよねー?』 上条「あ、えーっと…。はい」/// 小萌『じゃあクリスマスは御坂さんと仲良くするのですよー。あ、でも、学生としての節度は守るのですよー』 上条「なっ!?」/// 小萌『ではでは、良いクリスマスをー』 上条「ちょ、ちょっと!?小萌先生!?」 一方的に通話を切られ、少年は困惑して携帯を見る。 美琴「どうしたの?」 上条「ん?小萌先生がインデックスを今日泊めるってさ。それで、明日のパーティーは女性のみでやるから俺は来るなって。それで、クリスマスは美琴と過ごせってさ」 美琴「ア、アンタとわたしのこと、何でアンタの先生が知ってるのよ!?」/// 上条「あー、青ピから連絡行ったか、誰かに見られたのかもしれない」ウーム 美琴「何でアンタそんなに冷静なのよ?」 上条「ん?だって俺たち許婚だろ?親公認だし、別に隠す必要も無いかなって」 美琴「~っ!!」カァッ 上条「自分も独占欲強いとか言っておいて、何で照れてるんでしょうね美琴さんは」 美琴「うぅ。それはそうだけども…」(やっぱり恥ずかしい)/// 上条「ま、ゆっくり慣れてけばいいよな」ニコッ 美琴「…うん」 上条「さて、と。じゃあ今日の夕飯と明日の食事はどうするかなあ」 美琴「あ、そっか。あの子いないんだっけ」 上条「そうなんですよ。ま、今日は適当に作るとして、明日は…、明日もデートしようか」カァッ 美琴「デ、デート!?」/// 上条「今日みたいにショッピングでもいいし、どこか遊びに行くのでもいいし」 美琴「う、うん。…あ、あのさ?」 上条「ん?どこか行きたいところとかあるか?」 美琴「そうじゃなくって、その、さ。…今日の夕飯とか、明日のご飯とか、作ってあげようか?」 上条「…ホントに?」 美琴「うん」 上条「うわ。すっげえ嬉しい」 美琴「ふふ。じゃあ、スーパー寄っていこう。何か食べたいものとかある?」 上条「美琴センセーにお任せします」 美琴「じゃ、行こっか」ニコッ 少年に向かって微笑むと少女は手を引いて歩き出す。その顔はとても楽しそうであった。 ――― 寮監「御坂」 美琴「は、はい。なんでしょうか?」 スーパーで買い物をして、少年の家でカレーなどを作ってから門限ぎりぎりの時間に寮へ戻ると、寮監から声をかけられた。 寮監「ちょっと私の部屋へ来てくれ」 美琴「わかりました」(なんだろう?) 部屋に入り、促されるままダイニングテーブルの椅子に座る。部屋の主はティーカップとティーポットをテーブルの上に置き、少女の対面に座る。 寮監「飲むか?」 美琴「いただきます」 寮監「砂糖はいるか?」 美琴「いえ」 寮監「そうか」 寮監は優雅に紅茶を一口飲むと、音を立てずにソーサーにカップを置き、まっすぐに少女を見た。 寮監「まずは、おめでとう。と、言っておこう」 美琴「は?」 寮監「…婚約だ」 美琴「…は、はい」/// 寮監「お前を呼んだのはその件だ。常盤台は淑女を教育するための学校でもあるから、親公認で許婚ができることもまあ珍しくは無い。だが、正直に言うと、私にはお前に許婚というのは想定外だった」 美琴「…」 寮監「話が逸れたな。とりあえず、許婚がいる場合、門限や外泊に関しての規則が緩和されることになる。もっとも、届出は必要になるが。…まあ、お前の場合は研究協力なども多いから今までとあまり変わらないかもしれないが」 美琴「…」 寮監「あとは、その、親公認である場合は、薬剤が処方される。なるべくはやく薬局へ行って処方してもらってこい。これが処方箋だ」ペラ 美琴「はい。わかりました」(薬?) 処方箋に目を通した少女の顔が一瞬で紅に染まる。 美琴(こ、これ、これ、これって~~~!!)/// 薬剤の備考欄には『常盤台中学校 特措×-○における対象生徒 健康管理のための処方 エストロゲン調整剤 PI:0.1 要継続摂取』と記されていた。 授業で習っているため、エストロゲン調整剤の意味を少女は知っていた。エストロゲン調整剤、簡単に言えば経口避妊薬である。 寮監「まだ早いとは思うが、なにぶん相手もあることだし、学校としては不測の事態を避けるためにもあらかじめ処方することにしている」 美琴「あ、あはは~。わたしにはまだ早いと思いますけど」/// 寮監「服用は月経が終わってから、準備期間は一週間だ。それまで、性行為は慎むように」 美琴「せっ、せっ、せっ!!」アワアワ 寮監「お前がまだ早いと思っているのはわかるが、男というものは征服欲が強い。まして許婚ともなれば家単位で法律よりも慣習を優先させる傾向がある」 美琴「…」(ア、ア、ア、アイツと…)/// 寮監「御坂。私はな、寮監という立場上、そういった生徒を見てきた。だから、お前が傷つかないよう服薬をすることを勧めさせてもらう。傷つくのはいつも女の方だからな」 美琴「…」 寮監「私からは、常盤台の学生として、節度ある行動を心がけるよう行動してくれとしか言えない」 美琴「…はい」 寮監「次は装飾品についてだが、婚約指輪や慣習で引き継がれる貴金属は校則で禁止されているアクセサリー類からは除外される」 美琴「…」/// 婚約指輪という言葉に反応して、そっと左手に触れ、少女は頬を染める。その様子を見て、寮監は小さく首を傾げた。 寮監「…御坂は、許婚に対して恋愛感情を持っているのか?」 美琴「ふぇ!?」/// 寮監「いや、すまない。家の都合で婚約するものが多いから、お前みたいに嬉しそうにしているのは珍しいから…な」 美琴「あ、えっと、はい。…好きです」/// 寮監「相手もお前のことを好いていてくれるのか?」 美琴「は、はい」/// 寮監「…そうか。それは良かった」 美琴「…わたし、恵まれてるんですね。好きな相手と、婚約できて」 寮監「そうだな。だが、私は、婚約とは本来そういうものであって欲しいと願っている」 美琴「…」 寮監「だから、御坂。私はお前が相思相愛で婚約したということを、常盤台の寮監としてではなく、一人の知り合いとして祝福したい。おめでとう。御坂」 美琴「あ、ありがとうございます」/// 寮監「ところで、公表はするのか?」 美琴「友人以外には言わないと思います。まあ、すぐに広まるとは思いますけど」/// 寮監「そうだな。学校というものはそういう話に敏感だからな」 美琴「…彼にも言われたのですけど、親公認だから、その辺は開き直ってしまおうかと思いまして」/// 寮監「許婚はどんな奴だ?」 美琴「わたしよりも二つ年上で、お人よしで、おせっかいで、正義感が強くて、超能力者だろうがなんだろうが特別視しない人です」 寮監「高校生か。超能力者だろうがなんだろうが特別視しないということは、学園都市の生徒か?」 美琴「ええ、まあ」 寮監「…そういえば一時期、常盤台の超電磁砲が追い掛け回している無能力者がいるという噂があったな。お前の相手はその噂の相手なのか?」 美琴「うぇ!?」(う、噂になってたんだ)/// 寮監「幼馴染か何かか?」 美琴「あー、幼馴染ではないです。でも縁があるというかなんというか…」 寮監「見知った仲ではあるということか」 美琴「まあ、そうです」/// 寮監「…学園都市で知り合って、親公認の許婚か。…それは運命の相手と言えるのではないだろうか」/// どこか遠くを見るような眼差しで、寮監は言うと頬を紅く染めた。 美琴「…へ?」 寮監「幾多の困難を乗り越え、将来を誓い合うふたり。そこにあるのは真実の愛」ウットリ 美琴「りょ、寮監様?」 寮監「…羨ましい」ボソッ 美琴「あ、あはは」(あれ?寮監ってこんな人だった?)/// 寮監「…んっ、ゴホン。ともかく、おめでとう」/// 美琴「あ、ありがとうございます」(あ、戻った) 寮監「…報告はいつでも受け付けるからな」 美琴「ほ、報告なんてしません!!」(やっぱり戻ってない!!)/// 寮監「そうか。遠慮しないで良いのだぞ」ニコッ 美琴「し、失礼します」(寮監が壊れた…)バタン まるで年下の友人のように恋愛話を聞きたそうにしている寮監に恐れを抱いた少女は、すぐに立ち上がって部屋から出た。 美琴(寮監も乙女だってことかしら…)ブルブル 幸い寮監が追いかけてくることはなかったので、そのまま自室へと足を向ける。 美琴(そういえば黒子に文句言わないといけないわね。黒子のせいでアイツにパンツ見られちゃったし)/// 軽く頭を振って恥ずかしさを振り払うと、部屋の扉を開けた。 美琴「ただいま。黒子」 黒子「……………………」ブツブツ ルームメイトはベッドの上で体育座りをして、なにやら呟いていた。 黒子「お姉様が類人猿と間接キスをしていただなんて黒子は認めないですの。でもお姉様が類人猿の口に付いたクリームを指で掬ってペロッと舐めたのは事実。いえ、あれはきっと何かの間違いですの。黒子は疲れていた。お姉様は実験をしていた。でも、実験をしていたお姉様は類人猿の好みで短パン+ゲコ太パンツを履かずに縞パンを履いていた。つまり類人猿によって穢されていて、そんなこと、そんなこと黒子は、黒子は認めないですの」ブツブツ 美琴「アンタはなに呟いてるんじゃゴラアアアア」ビリビリ 黒子「ああ~んっ!!愛の鞭ですのぉぉぉぉぉぉ!!」ビクンビクン 美琴「てか、実験って何よ!アンタどんな妄想してるのよ!」 黒子「…ハッ、黒子はなにも見ていません!お姉様とは会っておりませんの!縞パンなんて見ておりませんの!」(実験のことは秘密でしたの!) 美琴(縞パンって、確か妹達が履いていたわよね…。妹達の一人が偶然、黒子に会って実験中とか言って誤魔化したのね、きっと)「そうよね。アンタは喫茶店でわたしの短パンずりおろしただけよねぇ…」ビリビリ 黒子「お、お姉様!?落ち着いてくださいませ。あれは、お姉様の貞操を確認したかっただけですの」 美琴「アンタねえ。デートの邪魔しておいて言いたいことはそれだけかしら?」 黒子「デ、デ、デート!?今、デートと仰いましたの!?」 美琴「ええ。アンタ、わたしのデートを邪魔したわよね」 黒子「あ、あ、あの類…殿方とお姉様がデート!?」 美琴「そうよ。わたし、当麻と付き合うことになったから」 黒子「な、な、名前呼び…」ブルブル 美琴「別に、彼氏のことを名前で呼んでもいいでしょ?」 黒子「お、お、お姉様が、お姉様が殿方のことを彼氏と…。黒子は、黒子は、少し外の風にあたってきますの…」フラフラ ツインテールの少女は虚ろな表情で立ち上がると、そのまま部屋から出て行った。 美琴(なんか思ってたよりも静かだったわね。もっと騒がれると思っていたんだけど) ベッドに仰向けになり、左手を上げて薬指を見る。 美琴(許婚、かあ)ニヘラー 幸せそうな微笑を浮かべて、少女はしばらくの間、指輪を眺めるのであった。 ――― ――お姉様が…殿方と恋仲に… 寮の屋上へと移動したツインテールの少女は、夜空を見上げながら溜息をついた。 ――わかっていたことですの。でも、お姉様から直接言われると、やはり堪えますわ。 夏頃からあのツンツン頭の少年を追い掛け回していたのは知っている。『電撃が効かないムカつく奴がいる』と、楽しそうに話していた。 秋が近づくにつれ、ツンツン頭の少年のことを話すたびに赤くなったり、挙動不審になったりすることが多くなった。 第三次世界大戦の後、しばらくの間ツンツン頭の少年のことを呼んで魘されていた。 ――なにがあったのかはわかりませんが、あの時のお姉様はそれはもう酷い有様でしたわ。今にも壊れてしまいそうなくらい打ちひしがれていて…。でも、いつの間にかお元気になられて、殿方のことを呼んで微笑んだりして…。 秋の初め頃、研究協力の一環として外泊することがあった。その頃には常盤台のエースの名に恥じない超能力者第三位に戻っていた。 ――なぜか私服を持っていかれたりしましたけど。もしかしたら学園都市の外の協力企業への出向だったのかもしれませんが。 黒子「…」ハァ ――あの殿方と一緒にいるときのお姉様を見てしまうと、黒子が入る隙は無いですの。 しばらくの間、空を見上げながら、ツインテールの少女は呟いた。 黒子「上条当麻…お姉様を泣かせたりしたら許しませんですわよ」 ――― とある男子学生寮の一室 ベッドの上の寝具を床に置いてあったものと取替えると、少年はその上に仰向けに倒れこんだ。左手を上に上げ、薬指の付け根をじっと眺める。 上条「許婚、か」 自然と、頬が緩む。 待ち合わせ場所で抱きつかれた時に、自分の中にあった想いを自覚した。 喫茶店で自分の想いを確信して、そのままの勢いで階段の踊り場で告白して、両想いだったことに幸福を感じた。 いつでも一緒のものを身に着けていたい我侭から、お互いの親に連絡をして許婚になった。 上条「…結構ぶっ飛んだことをしたよなあ」 後悔はしていない。むしろ絆が深まったことに幸せを感じている。 上条(それだけ俺は、美琴のことが好きだったんだな) 夕飯に作ってもらったカレーは、今まで食べたカレーの中で一番美味しかった。 寮の前まで送ろうと思ったのに、『抱きしめて欲しいから』と言われて、公園で抱きしめた後、姿が見えなくなるまでそこで見送った。 上条(しかし、何であんなにいい匂いがするんだろうな)/// 頬を赤くしながら、天井を見上げて両手を挙げる。 上条「幸せだー」 ――― 布団の中で、銀髪の少女は目を開けて天井を見た。 インデックス(とうまとみことがデートをしていた) 頬を赤く染めていた茶髪の少女の顔が思い浮かぶ。 茶髪の少女は、安全ピンで留めた修道服を『そんなの着ていると危ないから』と言って縫ってくれた。 『女の子は身嗜みも大切よ』と言って、ショッピングモールへ連れて行ってくれて、下着や部屋着、小物、生活用品を買ってくれた。 たまに部屋に来ては同居人のツンツン頭の少年に勉強を教えたり、わざわざ材料を持ってきて食事を作ってくれた。 ときどき外に連れていってくれて、一緒に遊んでくれた。 インデックス(最初はとうまを虐める酷い奴だと思っていたんだよ) 茶髪の少女は、外で会うと必ずと言っていいほど、ツンツン頭の少年に向かって雷撃をぶつけてきた。 でも、何度か見ているうちに、攻撃というよりは、話すためのきっかけを作るためにそうしているんだと気が付いた。 ツンツン頭の少年と話している時の茶髪の少女は、とても嬉しそうで、楽しそうだったから。 インデックス(やっと、とうまに想いが届いたんだね) 銀髪の少女の口元に優しい微笑が浮かぶ。そして再び目を閉じた。 インデックス(よかったね。みこと) ――― 学習机の椅子に座り、右手でシャープペンシルを弄りながら、黒髪の少女はノートに視線を落とす。 姫神(上条君。楽しそうだった) 常盤台中学の女の子と真っ赤になりながら、ケーキを食べさせあっていたツンツン頭のクラスメイトの少年。 青髪ピアスのクラスメイトの少年が乱入した時には『デートの邪魔をするな』と言って、しっかりと女の子をかばっていた。 姫神(デート…か。あれもデートになるのかな?) 青髪ピアスのクラスメイトの少年に頼まれて、一緒にクリスマスオーナメントを選んだ。そのお礼にと、クレープとココアを奢ってもらった。 姫神(私は。どうして。OKしたんだろう?) 青髪ピアスのクラスメイトの少年との約束。明日も彼のショッピングに付き合うことになっている。 姫神(別に。今日買ってもよかったと思うんだけど) 青髪ピアスの少年はどうしてわざわざ明日を指定してきたのだろう。 姫神(まあ。楽しかったから) 青髪ピアスの少年との他愛の無い話や、クリスマスオーナメント選びは思っていたよりも楽しかった。 姫神(青ピ君…か) 青髪ピアスの少年のことを思い出しながら、少女は小さく微笑んだ。 ――― 12月23日夜、とあるふたりのメール ――――――――― From 御坂美琴 Subject:今日は 本文:ありがとう。嬉しかった。夢じゃないよね?わたし、当麻の婚約者だよね? ――――――――― From 上条当麻 Subject Re 今日は 本文:夢だったらどうする?俺は泣く。 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re Re 今日は 本文:泣くだけなの?わたしは死んじゃうかも… ――――――――― From 上条当麻 Subject 安心しろ 本文:御坂美琴は上条当麻の婚約者だ。冗談でも死ぬとか言うな。好きだぞ。 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:わたしも 本文:よかった。ごめんなさい。大好き。 ――――――――― From 上条当麻 Subject:明日 本文:10時に自販機前で待ち合わせでいいか?ゲーセンでも行こうぜ。 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re 明日 本文:了解。一緒にプリクラ撮りたいな。新作のゲコ太フレームのやつが出たんだ。 ――――――――― From 上条当麻 Subject:Re Re 明日 本文:ゲコ太に邪魔されないツーショットが欲しいかも。 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re Re Re 明日 本文:うん。それも一緒に撮ろうね。 ――――――――― From 上条当麻 Subject:Re Re Re Re 明日 本文:ゲコ太は確定かよ。まあいいけど。 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:ゲコ太 本文:イヤ? ――――――――― From 上条当麻 Subject:Re ゲコ太 本文:イヤじゃないぞ。好きなんだろ? ――――――――― From 御坂美琴 Subject:Re Re ゲコ太 本文:うん。でも、当麻の方が好きだからね。 ――――――――― From 上条当麻 Subject:Re Re Re ゲコ太 本文:サンキュー。俺も、好きだぞ。 ――――――――― From 御坂美琴 Subject:あのね 本文:言葉で、聞きたいな。 ――― 常盤台中学学生寮208号室 ベッドの上に横になり、茶色い短髪の少女は携帯電話を握り締めていた。 ルームメイトであるツインテールの少女は、勉強机の前に座ってノートパソコンを開き、キーボードに何かを打ち込んでいる。 他愛の無いメールのやり取り。それはそれで楽しかったのだが、文字だけでは物足りなくなってくる。 美琴(わがままだなあ。わたし)ハァ 小さく溜息をつくと同時に、握っていた携帯電話が震えて、少女は小さく体を震わせた。 ディスプレイに表示された、『上条当麻』の文字に頬が赤くなるのを自覚しながら、少女は通話ボタンを押す。口元に幸せそうな笑みを浮かべて。 美琴「も、もしもし」/// 上条『まったく、お前は甘えん坊だなあ』 美琴「わ、悪い!?」 上条『いーや、悪くないですよ美琴さん。…ホントのこと言うと、俺もお前の声、聞きたかったし』 美琴「ホ、ホント?」 上条『お前に嘘ついてどうするんだよ。あー、…好きだぞ。美琴』 美琴「わたしも、好き!」/// その言葉を聞いて、ツインテールの少女の身体が小さく震え、キーボードを打つ手が止まる。(彼女に聞こえているのはルームメイトの少女の声だけ) 黒子(まさかとは思いますが…殿方とのラブトークですの!?)ブルブル 上条『…上条さん、幸せを噛み締めてるんですけど』 美琴「ふふ。当麻♪す~き♪」 黒子「―――!!」(ギュオエエエエエエエエエッッ!!あの類人猿めえええええええっっ!!)ギリギリ 上条『あー、もー!なんでこう美琴さんは、今日一日でこんなに可愛くなっちゃったんですか!』 美琴「当麻が告白してくれたからに決まってるじゃない!わたしはずっと、当麻のことが好きだったんだから!だから、当麻が好きって言ってくれたから、わたしも素直になれたの」/// 黒子(告白ですとおおおおっ!?こ、これはまずいですの。この後は延々とお姉様の惚気話が続くかもしれなくて、そのようなもの、わたくしには耐えられませんの…)ガタガタブルブル 上条『上条さんは幸せ者です。こんな素敵な彼女がいて』 美琴「わ、わたしも幸せ!当麻の彼女になれて」/// 上条『美琴』 美琴「当麻」/// 黒子「…!!」(酸素、酸素が足りませんわ!お姉様が電気分解でオゾンでも精製させておりますの?)ゼエゼエ 上条『やべ。これ以上話していると会いたくてたまらなくなる』 美琴「ホントに?わたしも今、同じこと考えてた」 上条『はは。似たもの同士だな』 美琴「えへへ」 上条『じゃあ、また明日。おやすみ』 美琴「…もう一回、好きって言って?」 黒子「――!!」(げ、限界ですの…)パタリ 上条『美琴。好きだ』 美琴「わたしも、好き。おやすみ。当麻」 上条『おやすみ。美琴』 少女は携帯電話を閉じると、それをそっと胸に抱いた。 美琴(おやすみ。当麻) 黒子「…」 ――――――――― クリスマス狂想曲12月23日 了 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/クリスマス狂想曲